集中荷重を受けるスラブの検討

どうも。

今回は、集中荷重を受けるスラブの設計について。

 

スラブ中心に集中荷重を受ける場合の計算法

RC基準より、スラブ中心に集中荷重を受ける場合の周辺固定スラブ(四辺固定版)の検討方法が示されています。

RC基準2010年版P.101より、

 

(2)スラブ中心に集中荷重Pを受ける周辺固定スラブに関して、H.Marcusによる略算式は次のとおりである。

各辺の(x方向を短辺、y方向を長辺とする)全反力を長辺上でvx、短辺上でvyとすると

 

Vx=P/2*ℓy^4/(ℓx^4+ℓy^4)

Vy=P/2*ℓx^4/(ℓx^4+ℓy^4)

 

長辺上で全モーメントをmx1、断面x=0でmx2、断面y=0でmyとすると、

 

mx1=-Vx*ℓx/4

mx2=μ(Vx+1/3Vy)*ℓx/4

 

my1=-Vy*ℓy/4

my2=μ(Vy+1/3*ℓx/ℓy*Vx)*ℓy4

 

ただし、μ=1-5/18*(ℓx^2*ℓy^2)/(ℓx^4+ℓy^4)

μについては等分布荷重と同様、周辺の固定度が不完全であることを考慮してμ=1として差し支えない。

これらの全モーメントを解説図10.5(b)のような三角形分布と仮定して配分すると、各部モーメントが求められる。ℓy>2ℓxの場合はmx1、mx2の分布範囲を2ℓxとする。【解説図10.5(c)】

Vx、Vyの分布は同様に三角形分布を仮定するが、ℓy>ℓxについてはVxの分布範囲をℓxとする【解説図10.5(a)】

 

反力と曲げモーメントの分布図

 

(a)は反力の分布範囲を示しています。

中央に集中荷重がかかるわけですから、スラブ中央部で反力が最大値を取り、そこから端部に向かって0に近づいていく。

 

(b)は曲げモーメントの状態を表した図。端部よりも中央部の方が曲げモーメントが大きくなります。

 

(c)は辺長比が2.0を超えた場合の曲げモーメントの分布図。短辺方向は中央から2ℓxの範囲しかが応力が生じないという事ですよね。

 

実際に検討してみる

 

集中荷重を考慮して配筋を決める

 

1.設計条件のまとめ

以下、設計条件。

・ℓx=3,000mm、ℓy=7,000mm

(長辺7,000mmは長いけど、面積が25m2未満なのでOKとする)

・辺長比λ=ℓy/ℓy=2.33

・Fc=24N/mm2なので、γ=24kN/m3

・D=150mm、dt=40mmより、d=110mm、j=0.875d=96.25mm

・固定荷重、積載荷重は適当、スラブ自重と加算してW=11,530N/m2

・Wx=11,154N/m2

・中央集中荷重P=15kN

 

2.等分布荷重を受けた時のスラブ応力の算出

等分布荷重のみ考慮した時の、スラブ端部・中央の設計応力を求める。

 

①短辺端部Mx1=-1/12*Wx*ℓx^2=-1/12*11.154*3.0^2≒-8.37kNm

②短辺中央Mx2=1/18*Wx*ℓx^2 =  1/18*11.154*3.0^2≒5.58kNm

③長辺端部My1=-1/24*W*ℓx^2 =-1/24*11.53*3.0^2  ≒-4.32kNm

④長辺中央My2=1/36*W*ℓx^2  =1/36*11.53*3.0^2    ≒2.88kNm

 

ここに、中央集中荷重を考慮した時の応力を加算すれば設計応力が求まります。

 

3.中央集中荷重を受けた時のスラブ応力の算出

まずはじめにX方向、Y方向の反力を求める。

 

Vx=P/2*ℓy^4/(ℓx^4+ℓy^4)=15.0/2*7.0^4/(3.0^4+7.0^4)≒7.26kN

Vy=P/2*ℓx^4/(ℓx^4+ℓy^4)=15.0/2*3.0^4/(3.0^4+7.0^4)≒0.24kN

 

次に応力算出。

 

①短辺端部mx1=-Vx*ℓx/4=-7.26*3.0/4≒-5.44kNm

②短辺中央mx2=μ(Vx+1/3Vy)*ℓx/4=1.0*(7.26+1/3*0.24)*3.0/4≒5.50kNm

③長辺端部my1=-Vy*ℓy/4=-0.24*7.0/4≒-0.42kNm

④長辺中央my2=μ(Vy+1/3*ℓx/ℓy*Vx)*ℓy/4=1.0*(0.24+1/3*3.0/7.0*7.26)*7.0/4≒2.24kNm

 

ちなみにμは1.0で良いとRC基準に書かれていますが、実際に計算すると0.95くらいになります。0.95で計算すれば多少応力は落ちますが、周辺の固定度が不明である事からμ=1.0として差し支えないとの事なので、1.0でむしろ計算すべきでしょうね。また、μが1.0を超える事はありません。

 

 

反力の計算結果より、短辺方向が荷重の約97%を負担している事が分かります。また、応力図より、短辺方向は端部、中央のMがほぼイコールとなっています。長辺方向は中央の曲げモーメントが端部より大きく、約5.2倍の応力差となっています。

 

4.等分布荷重時応力+中央集中荷重時応力

①短辺端部Mx=Mx1+mx1=-8.37-5.44=-13.81kNm

②短辺中央Mo=Mx2+mx2=5.58+5.50=11.08kNm

③長辺端部My=My1+my1=-4.32-0.42=-4.75kNm

④長辺中央Mo=My2+my2=2.88+2.24=5.12kNm

 

これら応力に対して断面算定すればOK。

 

5.断面算定

必要鉄筋量はMa=at*ft*jより、at=Ma/ft*jで求められるので、

 

①短辺端部必要at1=13.81*10^6/(195*96.25)≒735.8mm2

②短辺中央必要at2=11.08*10^6/(195*96.25)≒590.4mm2

③長辺端部必要at3=4.75*10^6/(195*96.25)≒253.1mm2

④長辺中央必要at4=5.12*10^6/(195*96.25)≒272.8mm2

 

となり、それぞれ配筋は

 

①D10D13@100 at=990mm2>at1=735.8mm2

②D10@100        at=710mm2>at2=590.4mm2

③D10@200        at=355mm2>at3=253.1mm2

④D10@200        at=355mm2>at4=272.8mm2

 

であればOKです。

 

総括

上で示したのはあくまで中央集中荷重の時の話。実際には、重量が極端に軽い場合は別として、スラブ中央に荷重がかかる場合は、中間に小梁を入れるなどして対応します。また、スラブのど真ん中に集中荷重がかかる場合というのは少ないと思います。つまり、上で示した通りの応力状態にはならないという事。例えば短辺方向の左端から1mの位置に荷重がかかった場合を想定すると、

 

両端固定梁とみなしたとき、

左端M=P*ab^2/ℓx^2=15*1.0*2.0^2/3.0^2=6.6kNm

右端M=P*a^2b/ℓx^2=15*1.0^2*2.0/3.0^2=3.3kNm

となり、荷重左端M=右端Mとはなりません。よって、このような場合に中央集中荷重とみなして検討することは、左端Mに関しては、応力を過小評価することとなり、危険側の検討になる、と言えます。なので、中央集中荷重を受ける場合の略算式が活躍する時というのは、ごく限られた場合のみなのかなーと思います。

 

じゃあどうすれば良いのか、というとその解答を持ち合わせていないわけですが、例えば前述の通り、両端固定で端部配筋を決め、中央配筋は端部ピンと仮定した時の応力を使うとか、端部の固定度を等分布と同程度と仮定するとかでしょうか。あとは、集中荷重をスラブ面積で割って、単位平米当たりの荷重として見込んでおく方法もありますが…。その辺は設計者判断に依るところが大きいですね。

梁貫通孔の検討

今回は梁貫通孔の検討をやってみます。

 

大まかな設計条件のまとめ

設計条件を下記に示します。

①梁断面bxD=450mmx950mm

②Fc=27N/mm2

③梁の内法長さLo=5200mm

④貫通孔径φ=250mm(950/3≒316.6>250:OK)←貫通孔径は、梁成の1/3以下である事

⑤貫通孔の鉛直方向位置=梁の中心(梁上端及び下端から475mmが貫通孔の芯)

⑥貫通孔の水平方向位置=スパン中央

⑦長期せん断力を考慮する

⑧せん断余裕率α=1.2とする

⑨梁の曲げ耐力計算時にスラブ主筋耐力を考慮する。

スラブは梁両側に取り付くものとする。

 

 

RC貫通孔補強の検討

 

 

補強要領図(が補強筋)

 

1.設計配筋のまとめ

上に示した「RC梁貫通孔補強の検討」に出てくる符号及び記号、数値をまとめ、検討を実際に追ってみます。

 

まず、1主筋は以下の条件とします。

1.主筋径D29→SD390

2.σy=390N/mm2

3.主筋外形=33mm

4.鉄筋のかぶり厚=40mm

 

①端部上端筋=4+2-D29→at1=6*642=3,852mm2

②端部下端筋=4-D29  →at2=4*642=2,568mm2

③中央上端筋=4-D29  →at3=4*642=2,568mm2

④中央下端筋=4-D29  →at4=4*642=2,568mm2

 

また、dtは以下の通りである。(STPは後に記載のようにD13とします)

1.梁面~1段目の主筋重心位置までの距離=40+14+33/2=70.5mm

2.梁面~2段目の主筋重心位置までの距離=40+14+33+1.5*29+33/2=147mmより、

 

①端部上端筋dt1=(4*70.5mm+2*147mm)/(4+2)=96.0mm

②端部下端筋dt2=(4*70.5mm+0*147mm)/4       =70.5mm

③中央上端筋dt3=(4*70.5mm+0*147mm)/4       =70.5mm

④中央下端筋dt4=(4*70.5mm+0*147mm)/4       =70.5mm

 

これより、有効成は以下の通り。

①端部上端d1=D-dt1=950mm-96.0mm=854.0mm

②端部下端d2=D-dt2=950mm-70.5mm=879.5mm

③中央上端d3=D-dt3=950mm-70.5mm=879.5mm

④中央下端d4=D-dt4=950mm-70.5mm=879.5mm

 

次に、スターラップの条件は以下の通り。

・STP 5-D13@150→Pw=5*127/梁幅b/@=5*127/450/150≒0.0094→0.94%<1.2%

・wσy=295N/mm2

 

2.スラブ厚・配筋のまとめ

1.スラブ厚t=150mm

2.スラブ配筋D10D13@200→SD295

(※梁両側に取り付くものとする。T形梁形式)

3.σsy=295N/mm2

4.スラブ主筋の最大鉄筋=D13より、D13の外径=14mm

5.鉄筋のかぶり厚=30mm

6.スラブ筋重心位置dst=かぶり厚+D13外径/2=30+14/2=37mm

7.スラブ筋の有効断面積as=(71+127)/2*1000/@*2=(71+127)/2*1000/200*2=990mm2

8.梁下端(圧縮縁)からスラブ筋重心位置までの距離=有効成ds=950mm-37mm=913.0mm

 

スラブ筋は梁上端の耐力計算時のみ考慮する

 

 

3.梁の終局せん断耐力,設計せん断力の算出

梁の終局せん断耐力は、梁の設計配筋・内法スパンより求める。

Muの計算式は以下に示す通り、上端は両側にスラブが取り付くので、スラブ筋の耐力を考慮する。下端は無視する。すなわち、

 

Mu上端=0.9*(端部上端筋断面積*主筋降伏強度*有効成

                         +スラブ有効鉄筋量*主筋降伏強度*有効成)*1.1←スラブ筋を考慮する

Mu下端=0.9*(端部下端筋断面積*主筋降伏強度*有効成)*1.1←スラブ筋は考慮しない

 

という式で表すことができます。という事で、実際の数値を当てはめて計算してみます。

 

Mu上端=0.9*(at1*σy*d1+as*σsy*ds)*1.1/10^6

             =0.9*(3,852*390*854.0+990*295*913.0)*1.1/10^6≒1534.1kNm

Mu下端=0.9*(at2*σy*d2)*1.1/10^6

             =0.9*(2,568*390*879.5)*1.1/10^6≒872.0kNm

 

これより、当該梁の終局せん断耐力は、

 

Qu=ΣMu/Lo=(1534.1+872.0)/5.2≒462.7kNとなる。

ここに長期せん断力とせん断余裕度αを考慮した値が設計せん断力となるので、

 

設計せん断力QUD=QL+α*Qu=120+1.2*462.7≒675.2kNとなります。

 

④無孔部分のせん断耐力の算出

無孔部分のせん断耐力の計算式は下記によります。

 

Qsu={0.092*ku*kp*(Fc+18)/(M/Qd+0.12)+0.85√Pw*wσy}*b*j

 

※ku=有効成dによる係数で、d≧400mmの時は0.72で一定とする。

   kp=引張鉄筋比ptによる係数(kp=2.36*pt^0.23)

   M/Qd=シアスパン比。3以上の場合には3とし、1以下の場合は1とする。

 

無孔部分なので、端部の各数値を上式に当てはめればよいので、

 

Qsu={0.092*0.72*0.74*(27+18)/3.10+0.85√(0.0094*295)}*450*747.25/1000

      ≒715.2kN>QUD=675.2kN OK(検定値=0.944<1.0)

 

よってOKとなります。上にも書きましたが、貫通孔は梁スパン中央に設けるので、無孔部分は張在端部の事を指します。このように貫通孔周辺だけでなく、無孔部分の検討も必要となります。

 

※各数値の根拠(せん断耐力が小さくなるよう配慮)

1.d1=854.0mmよりd≧400なのでku=0.72

2.Pt=min(at1,at2)/{b*max(d1,d2)}=2,568/(450*879.5)≒0.006488

3.kp=2.36*Pt^0.23≒0.74

4.M/Qd+0.12=max(Mu上端,Mu下端)/{QL+(ΣMu/Lo)*min(d1,d2)}

 =1534.1/{120+(1534.1+872.0)/5.2*854.0/1000}≒2.98<3.0 OK

(M/Qdは1以上3以下とする)

ここに0.12を加えると、M/Qd+0.12=3.10                  

5.j=min(d1,d2)*0.875=747.25mm

 

⑤有孔部分のせん断耐力の算出

有孔部分のせん断耐力の計算式は下記によります。

 

Qsuo={0.092*ku*kp*(Fc+18)/(M/Qd+0.12)*(1-1.61φ/D)+0.85√Ps*sσy}*b*j

 

※ku,kp,M/Qdの考え方は無孔部分のせん断耐力計算時と同じ。よって、

 

Qsuo={0.092*0.72*0.74*(27+18)/3.03*(1-1.61*250/950)+0.85*2.276}*450*769.5/1000

         ≒815.2kN>Qsu=715.2kN OK(検定値=0.88<1.0)

 

※RC基準に則り、QsuoはQsuと比較検討。結果OKですが、Qsuoは設計せん断力QUDとの比較でも個人的には問題ないと思います。なぜなら、無孔部分のせん断耐力はせん断補強比の影響を受けるため、せん断補強筋を増やす程せん断耐力が上昇し、場合によっては上記検討がNGになる、といった意味不明な現象に陥るからです。(数値の追っかけっこになる)

Pwは0.12%で頭打ちなので、それ以上のせん断補強を入れている場合はQsuの向上は見込めませんが、、

有孔部分と無孔部分の比較検討はなんだかやりすぎな気がします。

 

※各数値の根拠(せん断耐力が小さくなるよう配慮)

1.d=d3=d4=879.5mmよりd≧400なのでku=0.72

2.Pt=min(at3,at4)/{b*d}=2,568/(450*879.5)≒0.006488

3.kp=2.36*Pt^0.23≒0.74

4.M/Qd+0.12=max(Mu上端,Mu下端)/{QL+(ΣMu/Lo)*d)}

 =1534.1/{120+(1534.1+872.0)/5.2*879.5/1000}≒2.911<3.0 OK

(M/Qdは1以上3以下とする)

ここに0.12を加えると、M/Qd+0.12≒3.03                  

5.j=d*0.875≒769.5mm

 

6.√Ps*sσyについて

Psは孔周囲に配筋する補強筋量を示す。sσyは縦筋、斜め筋それぞれの降伏強度。

例えば縦筋片側2-16、斜め筋片側1-D29、c=D/2-dt3=950/2-70.5=404.5mmとすると、

√Ps*sσy=[{4*199*295+2*642*390*√2}/(b*c)]^0.5≒2.276となる。

 

cは梁断面に対して貫通孔位置、及びdtによって変動する数値(c=中央部鉄筋重心位置~貫通孔芯までの距離)であるが、今回は梁中心部に貫通孔があるものと想定しているので、梁上下ともc=404.5mmでOK。

 

 

検討終了・所感

という事で検討は以上です。

最初に示した検討書と数値が若干異なる点がいくつかありますが、主にdtの取り方の違いに原因があります。解説では細かく端部上下のdtを使い分けましたが、検討結果はほぼ変わらない、誤差の範囲なので、余程上端筋と下端筋の本数が違う場合を除き、dtは端部で1つ、中央で1つ、とした方が分かりやすいし計算書もまとめ易いです。

 

ということで終わります。ではまた。

梁貫通孔の位置の規定について

梁貫通孔とは

梁に設ける貫通孔の事。設備配管などを通すための孔です。ちなみに柱に貫通孔を設けることはありません。RC造の場合だと、梁のほかに外壁や床版に孔を空けることがあります。

 

 

鉄骨梁の貫通孔 梁端部には設けていない

 

梁貫通孔の位置の規定

配管を通すための梁貫通孔は、いかなる建築物にとっても必要であり、避けられない存在です。貫通孔を梁、壁、床版のいずれに設ける場合でも、"貫通孔補強材(補強筋)"が必要となります。構造体に孔を空けるわけなので、当然、孔の開いた部材の構造耐力は低下します。なので構造的には孔を空けたくないというのが本音です。しかしそういう訳にもいかないので、貫通孔周辺の部材耐力を原断面から落とさない+ひび割れ防止の観点から適切に補強します。貫通孔の位置は梁端部を避けるなどの配慮が必要となります。

 

貫通孔を梁端部に設けない理由

貫通孔は原則梁端部(塑性ヒンジ域)を避けます。その理由としては、

〇梁端部が曲げ降伏した後に、孔周辺がせん断破壊を起こさないよう十分なせん断余裕度を確保するために、適切な補強が必要となる事。しかし、設計で保証すべき孔周辺のせん断余裕度について十分に解明されていない為、避けた方が無難である事

〇建物の崩壊メカニズムは基本的に梁崩壊型とするため、梁が曲げ降伏するときに梁の端部から梁成分だけ離れた範囲は曲げヒンジ領域となる事。

〇梁降伏型の構造物は、変形性能を確保するためには曲げヒンジ領域の健全性を確保する必要がある。曲げヒンジ領域に貫通孔が存在すると、曲げヒンジ領域が断面欠損となるため、曲げ降伏後の変形性能が著しく低下することが懸念される事。

等が挙げられます。

とにかく、端部に貫通孔を設けるのは得策ではない、と言えます。

 

 

せん断余裕度とは何か

上記で挙げたせん断余裕度ですが、基本的に1.2倍の余裕度を見込みます。貫通孔の設計応力は、梁の主筋量及びスパン長から求められる終局せん断耐力とします。終局せん断耐力は、梁両端部の曲げモーメントの足し合わせをスパンで除した値となるため、

 

終局せん断耐力=Qu=ΣMu/Lo

 

という式で表すことができます。

ここに、せん断余裕度+長期のせん断力を加算した値、つまり

 

設計せん断力=QUD=QL+α*ΣMu/Lo

 

が設計せん断力となります。

 

では、設計せん断力を1.2倍に割り増す意味ですが、簡単に言えば「せん断破壊が怖いので20%の余力は見込んでおきたいから」ですかね…。計算式は上記のように確立してはいますが、実際に地震が来てみなければ建物がどのような挙動を示すのか、どこに力が集中するのかわかりません。もしかしたら、想定していたよりも大きな力が貫通孔周りに作用するかもしれません。施工も人間の手で行っている訳なので、計算書通りの耐力が本当に確保できているのかは、確かめようがないんですよね。

 

実際、せん断破壊は最も危険視される破壊形式であり、構造設計で最も嫌われる破壊形式でもあります。この破壊形式は脆性破壊の一種で、急激に破壊する危険性を含んでいます。よって、構造設計においては、建物の崩壊系は曲げ崩壊系とすることを理想、というか基本とし、せん断破壊しないよう、十分な梁・柱断面を確保し、せん断補強筋を配筋します。

阪神大震災でも、高架橋の柱がせん断破壊した事例がありました。↓

 

chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.jsce.or.jp/library/eq10/proc/00034/80-4-100474.pdf

阪神・淡路大震災特集コンクリート橋脚の被害の特徴より】

 

柱がせん断破壊した場合、上階の重量を支持する能力を失う事になるので、せん断破壊を起こした層は建物の自重に堪えかねて潰れることになります。また、梁がせん断破壊した場合は、床を支持しているのは梁なわけですから、梁が床を支持する能力を失い、床が落ちてきます。下階に人が住んでいた場合、どうなるかは言うまでもありません。

 

    

貫通孔を設けて良い位置について

では、具体的に梁貫通孔を設けて良い場所を下図に示します。

 

 

 




①梁貫通孔は、柱面から梁成(D)は最低限離す。

②梁筋が1段筋の場合→h≧φかつ175程度

 梁筋が2段筋の場合→h≧φかつ250程度

③貫通孔を平行に設ける場合、貫通孔の芯々間距離は 3(φ1+φ2)/2以上とする。

 

 

①は、梁端部からの貫通孔までの必要な離隔距離を示しています。梁成が大きくなるほど、また、梁スパンが短いほど、貫通孔を設けることがより困難になります。(貫通孔を設けられる範囲が狭くなる)また、短スパン梁は剛性が高く、どうしてもせん断力が大きくなるので、通常の梁に比べ貫通孔によるせん断耐力減少の影響を無視できないところがあります。

②は梁の主筋段数による規定です。貫通孔径は、梁成の1/3以下を原則とします。例えば梁成が800mm、貫通孔径が200mmで貫通孔を梁中心に設ける場合、

 

●1段筋

h=(D-φ)/2=(800-200)/2=300≧φ=200>175

●2段筋

h=(D-φ)/2=(800-200)/2=300≧φ=200<250

 

となります。1段筋の時は条件を満たしますが、2段筋の時は250程度のヘリ空きを確保できません。【250程度】、とぼかしてあるので200mmも250mm程度の範疇と考えるならokとするもよいのかもしれませんが、ここは設計者の判断による所かと思います。いずれにしても、梁成が小さい梁に大きな貫通孔を設けるのは得策ではないということです。梁成を上げるか、貫通孔径を落とすか、貫通孔を設けないか等々考える余地がありますね。しかし情けない話、梁主筋の段数によって規定が異なるとは知りませんでした。3段筋の時はどうするんですかね。

 

③は貫通孔同士をどれだけ離すか、という水平方向に関する規定です。φ1=φ2なら、3φ離せば良いということになります。

 

認定補強材(既製品)の使用

原則、梁端部(どの製品でもおそらく柱面から梁成D分は逃がす。在来も同様です)に貫通孔は設けてはいけません。もし設ける場合は設計者判断となり、不慮の事故が起きた際にメーカーが責任をとれなくなる(製品の評定外となる為)ため注意が必要です。本当にやむを得ない場合を除き、貫通孔位置を調整してもらうべきです。

 

貫通孔の検討もやりたいですが…長文になったので次の記事でまとめます。

今回はここまで。

二層地盤の検討

今回は二層地盤の検討をやってみます。

 

二層地盤の検討とは

直接基礎、杭基礎に関わらず、支持層はある程度堅い地盤(砂質土、砂礫層等)にします。これは堅い地盤程N値が大きく、支持力がとりやすい事に起因しているのですが、仮に支持層の下部に軟弱な粘土層、シルト層があった場合、想定していた支持力が確保できるのか(軟弱層で支持力が決まらないか)、という事を考える必要があります。この確認作業、及び検討を【二層地盤の検討】といいます。

 

実際に検討をしてみる

実際に検討をしてみます。まず、支持層を決めます。

①支持層の決定

 

ボーリング柱状図と基礎の姿図

 

 

深度1.9m付近に砂層がありますね。なのでこの層を支持層とします。設計支持力計算用のN値は5を採用します。

 

②設計軸力の計算、支持力の計算

 

次に設計軸力を仮定します。設計軸力は長期NL=250k N、短期Ns=450k Nと仮定し、必要となる支持力を計算します。

尚、長期・短期軸力には基礎自重を含みます。基礎自重はコンクリートと砂の比重の平均値から、γ=(24+16)=20kN/m3と仮定しています。

(軸力に占める基礎自重は、W=20*2.1*2.0^2=168kN程度です)

 

孔口標高とGL及びKBMの関係性の情報がないので、孔口標高をGLと仮定します。基礎の根入れ深さDf=2.1mとし、基礎幅B=基礎長さL=2.0mとします。

この時の長期許容支持力は約80kN/m2。短期は鉛直・水平荷重による角度成分は考慮せず単純に長期の2倍とし、160kN/m2とします。

 

 

許容支支持力計算

 

 

余談ですが、ボーリング柱状図より孔口標高-1.9mに地下水位の表示があります。今回、Df=2.1mとしており、基礎底が地下水位以下となるので、支持力計算時に土の単位体積重量を減じておく必要があります。地下水による浮力は9.8kN/m3。よって、基礎上部地盤単重γ2=18.0-9.8=8.2kN/m3とします。これだけでもかなりのペナルティです。

仮にγ2=18.0kN/m3だった場合、長期支持力は150kN/m2は取れる計算なので、支持力が1/2ほどに落ちたことになります。地下水位の存在は支持力計算において非常に厄介であり、見落としてはいけないという事が分かります。

 

③接地圧の計算

次は接地圧の計算を行います。

上記までの情報から、接地圧の検討は以下の通りです。

 

・長期の検討

σcL=NL/(BxL)=250/(2.0^2)=62.5kN/m2<qaL=80.0kN/m2 OK (検定値≒0.78<1.0)

・短期の検討

σcs=NL/(BxL)=450/(2.0^2)=112.5kN/m2<qas=160.0kN/m2 OK (検定値≒0.70<1.0)

 

長期・短期ともにOK。

 

二層地盤の検討

 

今回の本題である二層地盤の検討に移ります。

支持層の下の層の砂質シルト層に、基礎底からの分散角を考慮した接地圧がかかるものとして検討します。接地圧に対する基礎幅も分散角に応じて大きくなるため、基礎底から軟弱層までの距離(H-Df)が大きくなるほど検討は楽になるはずです。

 

二層地盤の検討は、下部粘性土が圧密沈下しない事を確認する作業です。例え支持層で長期80kN/m2、短期160kN/m2の地耐力が確保できる場合でも、支持層下部層の方が弱ければ、そっちで耐力が決まってしまいます。よって、支持層で確認、決定した地耐力が本当に確保できるのかを確認するための検討と言えます。

 

 

 

二層地盤の検討

 

①設計条件のまとめ

 

上に示したものが二層地盤の検討です。まずは設計条件をまとめます。必要な情報は、ざっくりまとめて

 

①基礎サイズ、Dfなどの基礎に関する条件

②設計接地圧p(地耐力の計算で求めたもの)

③GLから軟弱層までの深さ

④粘着力

⑤砂質土層(支持層)の極限支持力度qu1

⑥軟弱層表面に作用する接地圧(荷重度)p'(②に分散角を考慮したもの)

⑦下部粘性土の強度で決まる基礎底面における極限支持力度qu2

⑧二層地盤の極限支持力度

 

ぐらいでしょうか。

(※計算は建築基礎構造設計指針2019年版に沿って行う)

②それぞれの計算

 

①は持力計算で用いた値をそのまま使えばよいですね。B=L=2.0m、Df=2.1mです。また、基礎が正方形なのでα=1.2。これも地耐力の計算時に出てくる項目です。

 

②は「p」で表します。p(L)=σcL=62.5kN/m2、p(s)=σcs=112.5kN/m2。長期の検討の方が厳しかったので、今回はp(L)に対して検討します。尚、上の計算では長期許容支持力である80kN/m2を採用していますが、これは安全側の検討になるようにするためです。実際に生じている62.5kN/m2を採用しても問題ありません。

 

③これはHに該当する深さですね。柱状図よりシルト層表層レベルまでのGLからの深さは2.8mです。

 

④軟弱地盤=粘土やシルトに対する検討を想定しているので、粘着力を求める必要があります。詳細な地盤調査結果があればその値を用いて良く、N値換算方式でも構いません。今回はN値換算にて求めます。粘着力は1軸圧縮強度quが分かれば計算できます。

 

qu=12.5Nより、シルト層の最低値であるN値=1を当てはめると、qu=12.5kN/m2。

粘着力はquの1/2なので、C=1/2qu=6.25kN/m2となります。

 

⑤基礎の支持層はGL-2.1m砂質土であり、基礎底面での極限支持力を計算します。(後々の耐力計算に必要)

qu1=β*γ*B*η*Nr+γ*Df*Nq

      =0.3*8.2*2.0*0.79*6.8+8.2*2.1*10.7≒210.8kN/m2

これが砂質土層の基礎底面の極限支持力度。

 

⑥は「p'」で表します。これは式に数値を当てはめるだけの作業です。分散角は1:2勾配とし、検討結果より84.8kN/m2。

 

⑦下部粘性土の強度で決まる、基礎底面の極限支持力度を計算します。

qu2=(B+H-Df)(L+H-Df)/BL*(5.14αc)+γ1*Df

     =(2.0+2.8-2.1)^2/(2.0^2)*(5.14*1.2*6.25)+8.2*2.1≒87.5kN/m2

 

⑧二層地盤の極限支持力度は、建築基礎構造設計指針によるとqu1とqu2の小なる方を採用します。つまり、min(qu1,qu2)=qu2=87.5kN/m2。

qu1の式はβ*γ*B*η+Nr+γ*Df*Nqと、左辺、右辺の式にそれぞれγが組み込まれているため、地下水(浮力)の影響を考慮すると一概にqu2で決まるとは言えません。qu1で決まる可能性も想定して検討を行う事が必要です。

 

quは極限支持力より、長期許容支持力はその1/3。よってquL'=1/3qu=1/3*87.5≒29.2kN/m2

 

③二層地盤の検討

 

あとはシルト層の許容支持力と接地圧を比較して終わりです。シルト層に作用する接地圧p'=84.8kN/m2に対し、許容支持力quL'=29.2kN/m2と全く持っていないことが分かります。結果はNGです。

シルト層で決まる許容支持力は、基礎底面における支持力である事から、比較する接地圧は"p"で良いと考えられます。つまり、p=80kN/m2>quL'=29.2kN/m2。

検定値は2.74>1.0:NGです。

そもそもN値が小さすぎますね。N値1という事は、ハンマーを1回自由落下させただけで30cm地面に食い込むという事です。これでは耐力は見込めません。NGになるのも納得です。仮にpを許容支持力(80kN/m2)でなく実際の接地圧(62.5kN/m2)としても、検定値は約2.14と、OKになるレベルではありません。

 

NGをOKにするには、

①基礎サイズを見直す

②基礎底に改良をする

③杭基礎にする

でしょうか。①でNGをOKにするのは厳しそうなので、②か③を選択することになるでしょうね。

 

④N値をいじってOKにしてみる

これはただの検証です。N値がいくつならOKになるんでしょうか。結果、N値=4程あれば検定値0.89<1.0となりOKとなる事が分かりました。

(※p=実応力である62.5kN/m2に対し検討)

 

 

 

N値4あればOK

まとめ

今回は二層地盤の検討を行いました。直接基礎だけでなく、杭基礎の場合でも、申請時に確認や適判から指摘を受けることが多い内容です。あらかじめ地盤調査報告書、ボーリング柱状図に目を通し、基礎形式を含め検討しておくことが重要です。

 

23/11/18更新

コンクリートのスランプ値について

どうも。今回はコンクリート工事のスランプ値について考えます。

 

スランプとは

スランプとは、コンクリート流動性を示す指標の事です。スランプ値が大きいほど流動性が高く、コンクリートが分離することなく型枠内に密実に充填することができます。このコンクリート流動性の事を"コンシステンシー"と呼びます。

 

似た用語に"ワーカビリティ"というものがありますが、これはコンクリートの作業性能を表す用語です。

 ワーカビリティーは、コンクリートの練混ぜから運搬、打込み、締固め、仕上げまでの一連の作業に関するコンクリートの施工特性を表すものであり、判定の基準は、構造物の種類や施工箇所、施工方法によって異なる。このため、ワーカビリティーは「良い」、「悪い」、「作業に適する」など、定性的かつ相対的な評価となる。

(日本コンクリート工学会_コンクリートの基礎知識より)

 

コンクリート流動性が高いと型枠内の隅々までコンクリートが行き渡りますが、流動性を高めるためより多くの水分を含ませているため(単位水量が多いため)、

・コンクリート硬化後の乾燥収縮が大きい

・ブリーディングが生じやすい

(コンクリート打設時にコンクリートが分離する、骨材が過度に沈下してコンクリート上面に水が浮き上がる現象。結果、ひび割れる)

・粗骨材が分離しやすくコンクリートとの一体性が失われる可能性がある

等の弊害を招く事があります。

 

スランプ試験

スランプ値を計測するためには、スランプ試験を行う訳ですが、実際に試験方法を下記に示します。

 

スランプ試験の流れ

 

スランプコーンという容器に"フレッシュコンクリート"(硬化前のコンクリの事)を入れ、その後一気に引き抜きます。フレッシュコンクリートはドロドロなので、自重で沈下・広がります。スランプコーン天端~フレッシュコンクリート天端までの寸法をスランプ値として計測します。計測のタイミングはミキサー車が現場にレミコンを運搬してきてから型枠内に打設する前。

 

特記なき場合のスランプ値

構造図に特記の無い場合のスランプ値は、

・基礎,基礎梁→15cmまたは18cm

・その他部材→18cm

とします。

下記にコンクリートの種類、粗骨材最大粒形等による呼び強度とスランプ値の関係性を示しますが、最小5cm、最大21cmと意外に幅がある事が分かります。スランプ値5cmって大分硬いと思うんですが、どういった場面で使うのこれは。

 

各種レミコンのスランプ値・呼び強度・粗骨材最大径との関係

 

今回は以上です。

パラペットの剛性は考慮するべきか

どうも。今回はパラペットの剛性をすべきか否かについて考えます。

 

パラぺットには硬さがある

ここでいうパラペットはあくまでRCのパラペットですが、剛性計算においてパラペットを考慮するか、しないかによって計算結果が大きく変わってくる場合があります。例えば、パラペットの剛性を考慮すると

 

・偏心率・剛性率の計算に影響する。

・梁の剛度増大率が上昇する。

 

等の影響が考えられます。パラペットは梁上に立ち上げた壁のようなもので、一般に厚み150~180程度、高さは500~700mm程度でしょうか。コンクリートは梁と一体で打つちます。そして当然硬さも存在します。ですが、設計者によっては(時に物件によっては)重量のみ考慮し、剛性を無視する場合があります。かくいう私も剛性を無視して計算を行う場合がありますが、どういった時に剛性を無視するのかというと、パラペットの硬さが設計に余計な影響を及ぼす場合です。

 

具体的にどんな影響があるのか

では、どんな"余計な影響"があるのか、というと

パラペットの剛性を考慮すると、

①梁の剛性が上がる

②剛性上昇に伴い負担せん断力が大きくなる

③梁端部曲げモーメントが大きくなる

④設計配筋を増やす必要性が高まる

⑤せん断補強筋は長期0.6%、短期1.2%までしか考慮できないため、仮にせん断補強筋比が規定値以上でせん断余裕度がない場合、コンクリートボリュームを大きくする必要がある

⑥端部曲げモーメントが大きくなることにより、主筋量を増やす必要性が増す。主筋を増やしすぎると柱梁接合部でNGになる可能性が高まる

⑦梁が硬くなりすぎて、せん断破壊しやすくなる

 

等々、いろんな影響が複雑に絡み合う事態になります。なので、パラペットの剛性を無視して計算するのは簡単なんです。剛性を考慮すると計算が煩雑になる可能性が高くなる。

 

柱にパラペットが取り付く場合

柱とパラペットが取り付く場合は、間違いなく鉛直スリットで縁を切りましょう。でないと本当に設計が難しくなります。まず、鉛直スリットを入れなかった場合、柱が短柱となります。パラペットの高さ分柱の内法高さが短くなるわけです。これによる弊害は、

①柱の剛性が増し、負担せん断力が大きくなること

②柱の端部(柱頭・柱脚)曲げモーメントが大きくなること

です。①と②により、必要主筋及び帯筋が増えることは想像に難くありません。そして柱主筋を増やしすぎると、部材種別がFAからFB、FCと、二次設計においてペナルティを食らう確率が高まります。ペナルティというのは、Ds値が大きくなる、という事です。また、せん断破壊する確率も当然高くなります。いいことなしです。ただし時たま、意匠設計事務所からスリットを入れると防水工事が難しいと言われる場合があります。その点は注意です。

 

ちなみに必要保有水平耐力は以下の計算式により求めます。

 

Qun=Qud*Fes*Ds

 

Qud=Wi*Z*Rt*Ai*Co

※補足

Wi=建物総重量(i層より上の重量)

Z=地震地域係数

Rt=振動特性係数

Ai=地震層せん断力係数の分布係数

Co=標準せん断力係数(一次は0.2、二次は1.0)

 

Dsが大きくなるという事は必要保有水平耐力が大きくなる、という事です。

 

結論:パラペットの剛性は見るべき

話がそれましたが、今回の本題の結論としては、原則パラペットの剛性は考慮すべきで、構造的に難しい場合は意匠と相談し、パラペット高さを低くする、フレームの断面を大きくさせてもらう、柱と接する部位はスリットを入れる、等の工夫をすべきと考えます。そもそも、かつての大地震の経験から、せん断破壊がいかに危険であるか、そしてせん断破壊を避けるための知恵を蓄えてきたわけです。パラペットもせん断破壊を高める部材といってもよく、ほかには腰壁などがあげられます。これらの危険因子といかに上手く付き合っていくかが重要です。パラペットや腰壁の剛性を考慮すると計算が難しくなるので、安易に重量だけ考慮しておく、という考え方は非常に危険だと思います。

構造スリットと振れ止め筋

今回は振れ止め筋の検討について。

 

振れ止め筋とは

例えば3方スリットを切った場合の外壁は、外壁と柱梁の縁が切れている状態であり、地震に抵抗する要素がないためフラフラの状態である。(ただし、壁縦筋は上階の大梁内に定着されているので、1辺は固定端とみなすことができる)

 

 

 
図1.3方スリット(柱際▼は鉛直スリット、梁際▽は水平スリット)

 

 

 
図2.振れ止め筋なしとありの場合の外壁の挙動
左図は片持ち、右図は一端固定、他端ピン支持

 

上左図は、水平スリット及び鉛直スリットを設けなかった場合の外壁の挙動を示す。完全に梁(と柱)と壁の縁が切れてしまっているので、地震時に外壁が面外方向にフラフラと変形してしまう。これはまずい。

 

という事で、右図のように外壁と柱、梁との間に「振れ止め筋」を配筋し、変形を拘束する。ただし、構造スリットはそもそも外壁がフレームの変形を拘束することで生じる悪影響を抑制するために設けるためのもの。よって、拘束力が大きすぎるのも好ましくない。

よって、振れ止め筋は一般的に

D10~D16@300~400程度にとどめることが多い。(鉄筋径をなるべく小さく、ピッチを細かくしすぎない)

 

振れ止め筋の配筋方法

次に振れ止め筋の配筋方法について示す。

・外壁-梁に設ける振れ止め筋→振れ止め筋を梁あばら筋(STP)内に配筋する。

・外壁-柱に設ける振れ止め筋→振れ止め筋を柱帯筋(Hoop)内に配筋する。

 

要は、梁や柱のコア内にきちんと定着することで、振れ止め効果を十分に発揮させようとするという事である。

 

 

 

図3.梁と振れ止め筋(STP内に定着)

 

 

       

図4.柱と振れ止め筋(Hoop内に定着)

 

また、振れ止め筋の定着長だが、柱梁内に25d、柱梁フェイスから200mm程度壁内に定着する。

振れ止め筋径が、

D10なら25d=250mm

D13なら25d=325mm

D16なら25d=400mmの定着長が必要。まずないと思うが、極端に柱が小さい場合は定着長が取れない可能性もあるので気を付けた方がよいかも。

 

ちなみに25dの根拠については、「構造スリット指針P.48」に記載がある。

 

地震時、暴風時に振れ止め筋に生じる応力は曲げモーメント、せん断力であり、軸力は生じないので、柱・梁コンクリートへの定着長は建築基準法施工令の定着長(40d)とする必要はなく、文献(2)に示されている25dでよいと考えられる。

※文献(2):2007年版建築物の構造関係技術基準解説書(最新版は2020年版)

 

スリット幅について

次はスリット幅について、

一般に鉛直、水平スリットの幅は保有水平耐力の指定層間変形角、階高、柱・壁の内法高さから求める。以下に具体例を示す。

 

(例)

保有水平耐力計算時の指定層間変形角を一般的な1/100とした時のスリット幅を求める。

例えば図1の場合、

①階高3,200mm

②柱内法高さ2,400mm(梁成800mm)

③二次壁高さ2,400mmより、

 

(鉛直スリット幅)

鉛直スリット幅=(二次壁高さx1/100)+5~10mm

                         =(2,400x1/100)+5~10mm=29mm~34mm

 

(水平スリット幅)

水平方向変形幅=(階高/柱内法長さ)x二次壁高さx1/100

       =(3,200/2,400)x2,400x1/100=32mm

 

階高、柱・壁の内法高さによって必要となるスリット幅は異なるので、物件ごとに確認は必要だが、大体鉛直・水平スリットともに、25mm~30mm程度となることが多い。

 

振れ止め筋と防錆処理

振れ止め筋は、コンクリートのかぶりがなく(スリット部分の事)腐食の可能性が高く、取り換えが効かないため、耐久性に優れた「ステンレス棒鋼」、「溶融亜鉛メッキ塗装」、「エポキシ樹脂」等で防錆処理されたものを用いることが望ましい。

 

あらかじめ製品化されたものもあるので、それを使うのもよいかも。

 

www.koryo-kenpan.co.jp

 

↑コーリョー建販株式会社HPより

 

振れ止め筋の検討

ここでは振れ止め筋の検討方法を行う。検討方法は、「構造スリット設計指針」、「大阪府構造適合性判定指摘事例集」に倣う。

 

 

 

 

振れ止め筋の検討

設計条件として、

(外壁)

・外壁厚t=150mm

・Fc=24N/mm2

・外壁内法高さL=3,200mm-800mm=2,400mm

・壁縦筋=D10@200(単位当たりat=355mm2)、材質SD295(sft=295N/mm2)

地震時に対する検討なので、許容応力度は短期の値を用いる。

・壁筋のかぶり厚=40mm

・dt=かぶり厚+縦筋芯=40mm+11mm/2=45.5m→50mm

 

(振れ止め筋・スリット)

・振れ止め筋=D10@400(鉄筋径D=10mm ※呼び径とする)

・材質SD295(sft=295N/mm2)※短期許容応力度

・スリット幅=25mm

 

(外壁荷重)

・自重+仕上げ=5,100N/mm2

 

(検討モデル・検討方法)

検討モデルは、一端固定、他端ピンとする。支点反力の計算、曲げモーメントの計算は、検討モデルに従い行う。最大曲げモーメントを用いて壁縦筋の検討、振れ止め筋の検討はピン支持端の反力RAを用いる。水平震度は、低層階の場合KH=0.5としてよい。

 

結果、壁筋の検定値が0.2と十分な余力があることが分かる。また、振れ止め筋に関しても、余力はないもののD10@400で持つことがわかった。

 

もう少し余力が欲しければ、

・ピッチを@400→@300とすれば検定値が0.70程度

・鉄筋径をD10→D13に変更すれば検定値が0.43程度(@400のままで)

・可能ならスリット幅を小さくする

等の対応が考えられる。

 

開口がある場合の振れ止め筋の検討

上で計算したのは、外壁に開口がない場合(正しくは単位m当たりに開口がない場合)であり、実際の建物には開口があるので、開口の影響を考慮したパターンを考える。

 

 

 

①開口+開口下部重量を③□内で負担する場合

 

 

 

②開口下部②□外壁を腰壁にする場合

 

上の2つの図は、開口上下の外壁重量をどのように処理するかを示したもの。最も明快なパターンとして、開口右側の有効幅3,800mmの壁(オレンジの枠内)で、開口周りの重量を処理するといいうもの。

 

それ以外のパターンとして以下の2つを考えた。

①開口+開口下部重量を開口右側の有効幅3,800mmの壁(オレンジの枠内)で負担する。

開口上部は片持ちとして検討する。

 

②開口の両側の際に鉛直スリットを設けて、腰壁形式にする。開口下に水平スリットは設けない。開口上部は片持ちとする。(開口の重量はオレンジ枠内の外壁で負担するか、重量が微々たるものと判断し無視する)

 

いずれにしても壁筋と振れ止め筋が持っておけばよいんです。

検討は簡単に開口周りの重量を開口右側の壁で持たせるものとしてやってみる。

 

 

 

・壁縦筋の有効断面積は、3,800mm/@200*71mm2=1349mm2

・壁の重量はw=5.1kN/m2*5.0m*0.5=12.75kN/m

・振れ止め筋の有効本数は3,800mm/@400=9.5本

とする。

 

結果、縦筋はOK。振れ止め筋がD10@400でNGのため、D13@400に変更し、検定値0.59<1.0:OKとなった。

 

今回の振れ止め筋の検討はいずれも水平震度KH=0.5で計算したが、「大阪府構造適合性判定指摘事例集」には「建物の低層部分のため0.5」と書かれている。じゃあ建物最上階は?KH=1.0で検討?高層階の検討はKH=1.0で検討して持たせておくのが手っ取り早いと思うが、たぶんD13@400でも持たない箇所が出てくるので、最初からD16とかで全階統一するか、低層、高層のピッチを分けるかの判断が必要になりそう。

 

今回はこの辺で終わります。では👋