電算を読み解く-剛性計算条件編-②

どうもimotodaikonです。

今回は、久しぶりに電算を読み解くパート②をお届けします。

①はこちら↓

imotodaikon.hatenablog.com

 

 

RC柱・梁の剛性計算方法は?

一般に、RC柱、梁の剛性計算を行う場合、"清算法""略算法"のどちらかを選択して計算を行う事になる。清算法、略算法と一口に言っても、評価方法は異なり、大きく4つの評価方法がある。ここでいう剛性計算というのは、RC建物の場合、必ずと言ってよい程、梁には"垂れ壁や腰壁"、柱には"袖壁"などの剛性を無視できない壁が取り付くので、その壁の剛性をきちんと考慮して計算する事を目的とした計算の事である。

 

清算法、略算法とは何か

まず、清算法と略算法の違いから。清算法と聞くと実情に合った計算方法で、略算法と聞くと、計算を単純にする為の手法のように聞こえる。ま

あ、その通りである。でも、必ずしも剛性計算を行う上では清算法が正しいとは限らないよというのが今回の話。清算法、略算法による計算は、大きく分けて4つに分類されると上で述べた。その4つをここで紹介しよう。

 

(a)清算

(b)幅一定略算

(c)せい一定略算

(d)断面積倍略算

 

以上の4つである。

 

(a)清算

まずは(a)から。言葉の通り、建物形状に合わせた(というかフレームに取り付く壁の剛性をきちんと評価した)計算方法。具体的には以下のような図。

 

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(a)清算法による剛度増大率の計算
 

中央の断面を梁と仮定すると、下に垂れ壁、上に腰壁が取り付いている。これら垂れ壁、腰壁の剛性を幅、成に基づき計算して梁の剛度増大率を求める方法。確かに清算法だ。でもこの計算方法だと、梁の剛度増大率が数倍~10倍以上になる事がある。10倍以上はすごいね。

例えば梁のコンクリートボリュームを500x1,000とした場合の断面二次モーメントを考えると、Ix=500x1,000^3/12≒4.16x10^10mm4。その10倍となると4.16x10^11mm4。梁幅一定とした場合、梁成はh^3=4.16x10^11x12/500≒9.984x10^9mm3。hの3乗なので、梁成は、h=(9.984x10^9)^1/3≒2153mmとなる。仮に剛度増大率が10倍になると、大体梁成は2倍になる計算になる。設計ができなくなるレベルではないと思うけど、応力集中は避けられないだろうな。

 

(b)幅一定略算法

幅一定略算法は下図のような梁を仮定する方法。

 

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(b)幅一定略算法による剛度増大率の計算

幅一定略算法は、梁幅は変わらないものとし、梁成に加算する方法。幅は変わらないものとするので、梁成、柱成は大きくなる。ただ、先ほどの清算法と比較すると、剛度増大率は抑えられる。例えば、梁を500x1,000として、上下垂れ壁、腰壁を150x500とした場合、梁成h=1000+150x2=1300mmとなる。(梁幅と壁の長さが500mmで一緒なので、90度回転して梁成に加えればよい)剛度増大率は、約2.2倍。

 

(c)せい一定略算法

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(c)せい一定略算法による剛度増大率の計算

せい一定略算法は、壁の先端までを断面のせいとして計算する方法。断面二次モーメントは、幅よりも成の影響を強く受けるので、剛度増大率が上がるのも想像しやすい。(a)の清算法と同じく、場合によっては剛度増大率が10倍以上になることもある。(b)と同じく、梁が500x1,000、上下垂れ腰壁が150x500を仮定した時、梁成は1000+500x2=2000mm。梁幅は、b=(500x1000+150x500x2)/2000=325mm。断面二次モーメントは、Ix=325x2000^3/12≒2.17x10^11mm4。成固定で梁幅を調整する計算法なので、剛性は極端に上がる。

 

(d)断面積倍略算法

最も採用頻度の多い計算法。

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(d)断面積倍略算法による剛度増大率の計算

最も採用頻度の高い剛性評価方法はこの計算法によるもの。純粋に柱、梁の断面積に対し、増加する壁分の断面積を加算して倍率を求める方法。梁と垂れ腰壁の断面を(b)に基づいて計算すると、梁断面500x1000の断面積A1=500x1000=500,000mm2、垂れ壁、腰壁の断面積A2=150x500x2=150,000mm2。

よって、剛度増大率は、(A1+A2)/A1=1.3倍。

今まで気にせず断面積倍の計算法に則り剛性計算する方針としていた。(みんなそうしてるから)部分的に増し打ちがある場合などは、手計算で求めた値を電算に直接入力する方法を取っていたが、これは電算の計算方針との整合性を取るためにそうしているんだなという事に今更気が付いた。この計算方法だと、断面積の比較だけで済むので手計算でも計算しやすい。つまり間違いが少ない。

 

断面積略算法による計算の妥当性は?

採用実績が多いのは断面積倍略算法だが、妥当性に問題はないのだろうか。このことについて、【建築物の構造設計実務のポイント】に記載があったので紹介したい。

 

「腰・垂れ・そで壁が取り付く柱梁の剛性増大率は、一般に(d)の断面積略算法では2倍程度以内であるのに対して、(a)の清算法や清算法に近い(c)の略算法によると数倍~10倍以上など、非常に大きな値になります。その結果、清算法や(c)の略算法によると、腰・垂れ・そで壁付きの柱梁に極端に応力集中し、非常にバランスの悪い断面設計を強いられ、場合によっては設計困難となることから、ほとんどのケースで断面積倍略算法が採用されています。」(建築物の構造設計実務のポイントP.32より引用)

 

清算法や、(c)の略算法によると、剛度増大率が極端に大きくなる事から、場合によっては設計困難となる。と書かれている。確かに、部材の剛性が上がれば応力はその部材に集中するし、それだけでなく偏心率や剛性率への影響もある。部材が持つ持たないだけでなく、建物全体としてみても、非常に剛性バランスが悪く、偏心率が過大になったりして設計できなくなるという事かな。

 

清算法は、壁部分が柱梁と一体となり、断面全体が平面保持するものとして剛性計算する方法ですが、通常、二次壁は、そのような仮定の成立を前提として断面寸法や配筋が決められていません。二次壁は一般に、柱梁断面より厚さが小さく、配筋も非常に少ないため、ひび割れの発生に伴い容易に剛性低下しやすいと考えられます。したがって、二次壁の剛性低下の影響を適切に考慮しない限り、清算法による部材剛性評価が必ずしも実情に近いとはいえず、架構設計用応力の適切な評価につながるとは限りません。そのため、断面積倍略算法は、剛性低下の影響を見据えた簡便法と考えられます。」(建築物の構造設計実務のポイントP.32より引用)

 

(a)~(d)の計算方法はいずれも、剛性低下を考慮した計算方法ではない。ただ、RC部材はひび割れを起こすと剛性低下する事を踏まえると、一番理にかなった計算方法は(d)の断面積倍略算法である。と書いてある。まあ、剛度増大率も上の計算でいくと1.3倍程度だし、確かに2倍以内ではある。よって、RC柱、梁の剛性計算方法は断面積倍略算方法でやっておけば、問題になる事は少ないと言える。

 

今回はRC柱、梁の剛性評価方法について考えました。

ではまた。