梁貫通孔の位置の規定について

梁貫通孔とは

梁に設ける貫通孔の事。設備配管などを通すための孔です。ちなみに柱に貫通孔を設けることはありません。RC造の場合だと、梁のほかに外壁や床版に孔を空けることがあります。

 

 

鉄骨梁の貫通孔 梁端部には設けていない

 

梁貫通孔の位置の規定

配管を通すための梁貫通孔は、いかなる建築物にとっても必要であり、避けられない存在です。貫通孔を梁、壁、床版のいずれに設ける場合でも、"貫通孔補強材(補強筋)"が必要となります。構造体に孔を空けるわけなので、当然、孔の開いた部材の構造耐力は低下します。なので構造的には孔を空けたくないというのが本音です。しかしそういう訳にもいかないので、貫通孔周辺の部材耐力を原断面から落とさない+ひび割れ防止の観点から適切に補強します。貫通孔の位置は梁端部を避けるなどの配慮が必要となります。

 

貫通孔を梁端部に設けない理由

貫通孔は原則梁端部(塑性ヒンジ域)を避けます。その理由としては、

〇梁端部が曲げ降伏した後に、孔周辺がせん断破壊を起こさないよう十分なせん断余裕度を確保するために、適切な補強が必要となる事。しかし、設計で保証すべき孔周辺のせん断余裕度について十分に解明されていない為、避けた方が無難である事

〇建物の崩壊メカニズムは基本的に梁崩壊型とするため、梁が曲げ降伏するときに梁の端部から梁成分だけ離れた範囲は曲げヒンジ領域となる事。

〇梁降伏型の構造物は、変形性能を確保するためには曲げヒンジ領域の健全性を確保する必要がある。曲げヒンジ領域に貫通孔が存在すると、曲げヒンジ領域が断面欠損となるため、曲げ降伏後の変形性能が著しく低下することが懸念される事。

等が挙げられます。

とにかく、端部に貫通孔を設けるのは得策ではない、と言えます。

 

 

せん断余裕度とは何か

上記で挙げたせん断余裕度ですが、基本的に1.2倍の余裕度を見込みます。貫通孔の設計応力は、梁の主筋量及びスパン長から求められる終局せん断耐力とします。終局せん断耐力は、梁両端部の曲げモーメントの足し合わせをスパンで除した値となるため、

 

終局せん断耐力=Qu=ΣMu/Lo

 

という式で表すことができます。

ここに、せん断余裕度+長期のせん断力を加算した値、つまり

 

設計せん断力=QUD=QL+α*ΣMu/Lo

 

が設計せん断力となります。

 

では、設計せん断力を1.2倍に割り増す意味ですが、簡単に言えば「せん断破壊が怖いので20%の余力は見込んでおきたいから」ですかね…。計算式は上記のように確立してはいますが、実際に地震が来てみなければ建物がどのような挙動を示すのか、どこに力が集中するのかわかりません。もしかしたら、想定していたよりも大きな力が貫通孔周りに作用するかもしれません。施工も人間の手で行っている訳なので、計算書通りの耐力が本当に確保できているのかは、確かめようがないんですよね。

 

実際、せん断破壊は最も危険視される破壊形式であり、構造設計で最も嫌われる破壊形式でもあります。この破壊形式は脆性破壊の一種で、急激に破壊する危険性を含んでいます。よって、構造設計においては、建物の崩壊系は曲げ崩壊系とすることを理想、というか基本とし、せん断破壊しないよう、十分な梁・柱断面を確保し、せん断補強筋を配筋します。

阪神大震災でも、高架橋の柱がせん断破壊した事例がありました。↓

 

chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.jsce.or.jp/library/eq10/proc/00034/80-4-100474.pdf

阪神・淡路大震災特集コンクリート橋脚の被害の特徴より】

 

柱がせん断破壊した場合、上階の重量を支持する能力を失う事になるので、せん断破壊を起こした層は建物の自重に堪えかねて潰れることになります。また、梁がせん断破壊した場合は、床を支持しているのは梁なわけですから、梁が床を支持する能力を失い、床が落ちてきます。下階に人が住んでいた場合、どうなるかは言うまでもありません。

 

    

貫通孔を設けて良い位置について

では、具体的に梁貫通孔を設けて良い場所を下図に示します。

 

 

 




①梁貫通孔は、柱面から梁成(D)は最低限離す。

②梁筋が1段筋の場合→h≧φかつ175程度

 梁筋が2段筋の場合→h≧φかつ250程度

③貫通孔を平行に設ける場合、貫通孔の芯々間距離は 3(φ1+φ2)/2以上とする。

 

 

①は、梁端部からの貫通孔までの必要な離隔距離を示しています。梁成が大きくなるほど、また、梁スパンが短いほど、貫通孔を設けることがより困難になります。(貫通孔を設けられる範囲が狭くなる)また、短スパン梁は剛性が高く、どうしてもせん断力が大きくなるので、通常の梁に比べ貫通孔によるせん断耐力減少の影響を無視できないところがあります。

②は梁の主筋段数による規定です。貫通孔径は、梁成の1/3以下を原則とします。例えば梁成が800mm、貫通孔径が200mmで貫通孔を梁中心に設ける場合、

 

●1段筋

h=(D-φ)/2=(800-200)/2=300≧φ=200>175

●2段筋

h=(D-φ)/2=(800-200)/2=300≧φ=200<250

 

となります。1段筋の時は条件を満たしますが、2段筋の時は250程度のヘリ空きを確保できません。【250程度】、とぼかしてあるので200mmも250mm程度の範疇と考えるならokとするもよいのかもしれませんが、ここは設計者の判断による所かと思います。いずれにしても、梁成が小さい梁に大きな貫通孔を設けるのは得策ではないということです。梁成を上げるか、貫通孔径を落とすか、貫通孔を設けないか等々考える余地がありますね。しかし情けない話、梁主筋の段数によって規定が異なるとは知りませんでした。3段筋の時はどうするんですかね。

 

③は貫通孔同士をどれだけ離すか、という水平方向に関する規定です。φ1=φ2なら、3φ離せば良いということになります。

 

認定補強材(既製品)の使用

原則、梁端部(どの製品でもおそらく柱面から梁成D分は逃がす。在来も同様です)に貫通孔は設けてはいけません。もし設ける場合は設計者判断となり、不慮の事故が起きた際にメーカーが責任をとれなくなる(製品の評定外となる為)ため注意が必要です。本当にやむを得ない場合を除き、貫通孔位置を調整してもらうべきです。

 

貫通孔の検討もやりたいですが…長文になったので次の記事でまとめます。

今回はここまで。