今回は梁貫通孔の検討をやってみます。
大まかな設計条件のまとめ
設計条件を下記に示します。
①梁断面bxD=450mmx950mm
②Fc=27N/mm2
③梁の内法長さLo=5200mm
④貫通孔径φ=250mm(950/3≒316.6>250:OK)←貫通孔径は、梁成の1/3以下である事
⑤貫通孔の鉛直方向位置=梁の中心(梁上端及び下端から475mmが貫通孔の芯)
⑥貫通孔の水平方向位置=スパン中央
⑦長期せん断力を考慮する
⑧せん断余裕率α=1.2とする
⑨梁の曲げ耐力計算時にスラブ主筋耐力を考慮する。
スラブは梁両側に取り付くものとする。
RC貫通孔補強の検討
補強要領図(赤と緑が補強筋)
1.設計配筋のまとめ
上に示した「RC梁貫通孔補強の検討」に出てくる符号及び記号、数値をまとめ、検討を実際に追ってみます。
まず、1主筋は以下の条件とします。
1.主筋径D29→SD390
2.σy=390N/mm2
3.主筋外形=33mm
4.鉄筋のかぶり厚=40mm
①端部上端筋=4+2-D29→at1=6*642=3,852mm2
②端部下端筋=4-D29 →at2=4*642=2,568mm2
③中央上端筋=4-D29 →at3=4*642=2,568mm2
④中央下端筋=4-D29 →at4=4*642=2,568mm2
また、dtは以下の通りである。(STPは後に記載のようにD13とします)
1.梁面~1段目の主筋重心位置までの距離=40+14+33/2=70.5mm
2.梁面~2段目の主筋重心位置までの距離=40+14+33+1.5*29+33/2=147mmより、
①端部上端筋dt1=(4*70.5mm+2*147mm)/(4+2)=96.0mm
②端部下端筋dt2=(4*70.5mm+0*147mm)/4 =70.5mm
③中央上端筋dt3=(4*70.5mm+0*147mm)/4 =70.5mm
④中央下端筋dt4=(4*70.5mm+0*147mm)/4 =70.5mm
これより、有効成は以下の通り。
①端部上端d1=D-dt1=950mm-96.0mm=854.0mm
②端部下端d2=D-dt2=950mm-70.5mm=879.5mm
③中央上端d3=D-dt3=950mm-70.5mm=879.5mm
④中央下端d4=D-dt4=950mm-70.5mm=879.5mm
次に、スターラップの条件は以下の通り。
・STP 5-D13@150→Pw=5*127/梁幅b/@=5*127/450/150≒0.0094→0.94%<1.2%
・wσy=295N/mm2
2.スラブ厚・配筋のまとめ
1.スラブ厚t=150mm
2.スラブ配筋D10D13@200→SD295
(※梁両側に取り付くものとする。T形梁形式)
3.σsy=295N/mm2
4.スラブ主筋の最大鉄筋=D13より、D13の外径=14mm
5.鉄筋のかぶり厚=30mm
6.スラブ筋重心位置dst=かぶり厚+D13外径/2=30+14/2=37mm
7.スラブ筋の有効断面積as=(71+127)/2*1000/@*2=(71+127)/2*1000/200*2=990mm2
8.梁下端(圧縮縁)からスラブ筋重心位置までの距離=有効成ds=950mm-37mm=913.0mm
スラブ筋は梁上端の耐力計算時のみ考慮する
3.梁の終局せん断耐力,設計せん断力の算出
梁の終局せん断耐力は、梁の設計配筋・内法スパンより求める。
Muの計算式は以下に示す通り、上端は両側にスラブが取り付くので、スラブ筋の耐力を考慮する。下端は無視する。すなわち、
Mu上端=0.9*(端部上端筋断面積*主筋降伏強度*有効成
+スラブ有効鉄筋量*主筋降伏強度*有効成)*1.1←スラブ筋を考慮する
Mu下端=0.9*(端部下端筋断面積*主筋降伏強度*有効成)*1.1←スラブ筋は考慮しない
という式で表すことができます。という事で、実際の数値を当てはめて計算してみます。
Mu上端=0.9*(at1*σy*d1+as*σsy*ds)*1.1/10^6
=0.9*(3,852*390*854.0+990*295*913.0)*1.1/10^6≒1534.1kNm
Mu下端=0.9*(at2*σy*d2)*1.1/10^6
=0.9*(2,568*390*879.5)*1.1/10^6≒872.0kNm
これより、当該梁の終局せん断耐力は、
Qu=ΣMu/Lo=(1534.1+872.0)/5.2≒462.7kNとなる。
ここに長期せん断力とせん断余裕度αを考慮した値が設計せん断力となるので、
設計せん断力QUD=QL+α*Qu=120+1.2*462.7≒675.2kNとなります。
④無孔部分のせん断耐力の算出
無孔部分のせん断耐力の計算式は下記によります。
Qsu={0.092*ku*kp*(Fc+18)/(M/Qd+0.12)+0.85√Pw*wσy}*b*j
※ku=有効成dによる係数で、d≧400mmの時は0.72で一定とする。
kp=引張鉄筋比ptによる係数(kp=2.36*pt^0.23)
M/Qd=シアスパン比。3以上の場合には3とし、1以下の場合は1とする。
無孔部分なので、端部の各数値を上式に当てはめればよいので、
Qsu={0.092*0.72*0.74*(27+18)/3.10+0.85√(0.0094*295)}*450*747.25/1000
≒715.2kN>QUD=675.2kN OK(検定値=0.944<1.0)
よってOKとなります。上にも書きましたが、貫通孔は梁スパン中央に設けるので、無孔部分は張在端部の事を指します。このように貫通孔周辺だけでなく、無孔部分の検討も必要となります。
※各数値の根拠(せん断耐力が小さくなるよう配慮)
1.d1=854.0mmよりd≧400なのでku=0.72
2.Pt=min(at1,at2)/{b*max(d1,d2)}=2,568/(450*879.5)≒0.006488
3.kp=2.36*Pt^0.23≒0.74
4.M/Qd+0.12=max(Mu上端,Mu下端)/{QL+(ΣMu/Lo)*min(d1,d2)}
=1534.1/{120+(1534.1+872.0)/5.2*854.0/1000}≒2.98<3.0 OK
(M/Qdは1以上3以下とする)
ここに0.12を加えると、M/Qd+0.12=3.10
5.j=min(d1,d2)*0.875=747.25mm
⑤有孔部分のせん断耐力の算出
有孔部分のせん断耐力の計算式は下記によります。
Qsuo={0.092*ku*kp*(Fc+18)/(M/Qd+0.12)*(1-1.61φ/D)+0.85√Ps*sσy}*b*j
※ku,kp,M/Qdの考え方は無孔部分のせん断耐力計算時と同じ。よって、
Qsuo={0.092*0.72*0.74*(27+18)/3.03*(1-1.61*250/950)+0.85*2.276}*450*769.5/1000
≒815.2kN>Qsu=715.2kN OK(検定値=0.88<1.0)
※RC基準に則り、QsuoはQsuと比較検討。結果OKですが、Qsuoは設計せん断力QUDとの比較でも個人的には問題ないと思います。なぜなら、無孔部分のせん断耐力はせん断補強比の影響を受けるため、せん断補強筋を増やす程せん断耐力が上昇し、場合によっては上記検討がNGになる、といった意味不明な現象に陥るからです。(数値の追っかけっこになる)
Pwは0.12%で頭打ちなので、それ以上のせん断補強を入れている場合はQsuの向上は見込めませんが、、
有孔部分と無孔部分の比較検討はなんだかやりすぎな気がします。
※各数値の根拠(せん断耐力が小さくなるよう配慮)
1.d=d3=d4=879.5mmよりd≧400なのでku=0.72
2.Pt=min(at3,at4)/{b*d}=2,568/(450*879.5)≒0.006488
3.kp=2.36*Pt^0.23≒0.74
4.M/Qd+0.12=max(Mu上端,Mu下端)/{QL+(ΣMu/Lo)*d)}
=1534.1/{120+(1534.1+872.0)/5.2*879.5/1000}≒2.911<3.0 OK
(M/Qdは1以上3以下とする)
ここに0.12を加えると、M/Qd+0.12≒3.03
5.j=d*0.875≒769.5mm
6.√Ps*sσyについて
Psは孔周囲に配筋する補強筋量を示す。sσyは縦筋、斜め筋それぞれの降伏強度。
例えば縦筋片側2-16、斜め筋片側1-D29、c=D/2-dt3=950/2-70.5=404.5mmとすると、
√Ps*sσy=[{4*199*295+2*642*390*√2}/(b*c)]^0.5≒2.276となる。
cは梁断面に対して貫通孔位置、及びdtによって変動する数値(c=中央部鉄筋重心位置~貫通孔芯までの距離)であるが、今回は梁中心部に貫通孔があるものと想定しているので、梁上下ともc=404.5mmでOK。
検討終了・所感
という事で検討は以上です。
最初に示した検討書と数値が若干異なる点がいくつかありますが、主にdtの取り方の違いに原因があります。解説では細かく端部上下のdtを使い分けましたが、検討結果はほぼ変わらない、誤差の範囲なので、余程上端筋と下端筋の本数が違う場合を除き、dtは端部で1つ、中央で1つ、とした方が分かりやすいし計算書もまとめ易いです。
ということで終わります。ではまた。