設計ルートと付着割裂破壊の検討について

どうもimotodaikonです。

今回は、設計ルートと付着割裂破壊の検討についての記事。

 

設計ルートに関わらず付着割裂破壊の検討はしないといけないのか?

答えはyes。設計ルートが1だろうが3だろうが付着割裂破壊の検討は行わなければならない。実は私も最近知った。どの設計事務所でも、設計者でも、建物規模が極端に小さい場合等を除き、基本的にルート3で設計する事が多いと思う。私も例外ではなく、ルート3以外で設計した経験はほとんどない。思い出すのも難しいレベル。

 

ただ、以前たまたまルート1で設計した物件があり、そこで付着割裂破壊をすべきなのか否か迷ったという経験がある。意外と知らない人もいるかもしれないので、今回の記事を書くに至った。

 

そもそも設計ルートって何なの

そもそもの話になるが、設計ルートとは何かについて考えたい。設計ルートは、構造設計を行う上でたどる道筋のようなものである。設計ルートにはルート1、ルート2及びルート3の3つのルートがある。それぞれのルートで計算方法が異なる。

 

①設計ルート1

いわゆる許容応力度設計法。S造においては、地震力を1.5倍に割り増して計算する方法。普段ルート3ばかりやっていると、標準せん断力係数Co=0.2というのが頭に刷り込まれている。ただ、ルート1ではこれを1.5倍する。すなわち、Co=0.2*1.5=0.3で設計するのである。そしてこの時に部材に生じる応力が、部材の許容応力度を超えない事を確認する。RC造・SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)においては、一定以上の壁量・柱量を確保することで耐震性を上げる方法。

ルート1のメリットは、適合性判定が不要なこと。そして比較的計算が楽であるという事に尽きる。

(ほんとはルート1-1、1-2と派生しているのだが、今回は省略)

 

②設計ルート2

設計ルート2では、ルート1のように設計応力を割り増す必要はないが、許容応力度計算に加え、層間変形角の確認(基本、1/200を基準とする)及び偏心率・剛性率の検討などを要す。ぶっちゃけあんまりルート2で設計する事ってないと思う。結局、許容応力度計算もするし、層間変形角・偏心率・剛性率の計算もしなければならないので、ルート1のように時間短縮のメリットもなければ、ルート3よりも手間が極端に減るわけでもなし。私もほとんどやったことない。中途半端な立ち位置。

 

③設計ルート3

多分一般的な計算方法。保有水平耐力計算を行う方法。保有水平耐力計算というのは、地震時(震度6以上)に建物が崩壊しない事(つぶれない事)を確認する手法である。保有水平耐力の計算時は、指定層間変形角として1/100程度を指定し、そこまで押し切った段階(せん断破壊等の脆性破壊が起きたらそこでSTOPさせる)で、保有水平耐力が必要保有水平耐力を上回っている事を確認する。そしてそれとは別に、Ds時の検討も行う必要がある。

Ds時の検討というのは、簡単に言うと"建物がどのように壊れるのか"を確認する作業である。指定層間変形角は、基本的に1/50とし、1/50に達するまで水平力を加えていく。変形が進むにつれ、柱や梁、耐震壁といったフレームをなす構造部材にはヒンジ(曲げモーメントを負担できない箇所)が生じていく。ヒンジは柱頭・柱脚、梁端部等に生じるが、(当然、耐震壁にも生じる)基本的に、柱崩壊系は好ましくないとされている。望ましいのは梁崩壊系。梁崩壊系というのは、要は柱に対して梁の耐力が小さく、外力に対して柱よりも先に梁が降伏する崩壊形式の事である。柱崩壊系に比べ、梁崩壊系の方が粘り強い崩壊系である事が分かっている。(過去の大震災:1923年の関東大震災や1995年の阪神大震災の経験から)

 

着割裂破壊の検討について

では、付着割裂破壊の検討の話に戻る。上で設計ルートに関わらず、付着割裂破壊の検討は行わなければならないと書いた。その根拠について、ウェブ掲載「2020 年版 建築物の構造関係技術基準解説書の質疑(Q&A)のNo.14」に、関連する質疑及び回答があるので以下に紹介する。 

 

Q:『鉄筋コンクリート造部材の靭性の確保について、設計用せん断力が RC規準2018の安全性確保のための許容せん断力を超えないことを確認したら、通し配筋の場合、付着割裂の検討は省略できると記されています。一方、RC 規準 2018 では、「大地震時に曲げ降伏しないことが確かめられた部材ですべて通し配筋とする場合は、せん断の安全性の検討を行えば、付着の安全性の検討は省略してよい。」(同規準 p.215 L18)と記されています。大地震時に曲げ降伏しないことが確かめられた部材という条件は必要
ないでしょうか。』

 

A:『ご指摘の鉄筋コンクリート造の付着割裂の検討に関する記述は、ルート1という特定の条件を前提として、壁量・柱量の確保により十分な耐力、剛性が確保されているために大きな塑性変形が生じる恐れはなく、したがって RC 規準 2018 に示された「大地震時に曲げ降伏しないことが確かめられた部材」を自動的に満足するものと見なした記述になっています。なお、ルート2についても同様です。』

 

↓2020 年版 建築物の構造関係技術基準解説書の質疑(Q&A)

https://www.icba.or.jp/zzfilebox/kenshuka/2020qa.pdf

 

大事なのは、上のQ&Aの赤字部分。『~安全性確保のための許容せん断力を超えないことを確認したら~』である。これは裏を返せば、

①安全性確保のための検討を省略したら付着割裂破壊の検討は必要。

②安全性確保のための検討を省略しても、通し配筋でなければ付着割裂破壊の検討は必要。

と読み取れる。

 

また、質疑内容の黄色本回答頁は、P.385の29行目と書いてある。その頁は、「第6章 保有水平耐力等の構造計算 6.4.2鉄筋コンクリート造のルート1の計算」に該当するのである。これより、ルート1においても、靭性確保の為の検討(付着割裂破壊の検討)が必要であると判断する事が出来る。(ルート2は同書籍P.389、ルート3はP.395~P.396に記述がある)

 

以上より、設計ルートに関係なく、付着割裂破壊の検討は必要である。ただし、上文にあるように、特定の条件を満たせば省略する事も可能である。と考えて差し支えない。

 

今回は設計ルートと付着割裂破壊の検討の関係について考えました。

今回はこの辺で。ではまた。