トラス梁の設計

どうもimotodaikonです。

今回はトラス梁の設計方法について考えます。

 

 

トラス梁の概要↓

 

imotodaikon.hatenablog.com

 

 

トラス梁の設計方法について

トラス梁は弦材とラチスを組み合わせて作る組み立て材である。弦材はアングルやCT(カットティー)、ラチスはアングルやPL(プレート)を使用する事が多い。

 

前回の記事でも触れたが、トラス梁には軸力しか生じない。軸力は圧縮力と引張力の2種類に分けられる。この内、部材断面を決定づけるのは圧縮力である。鋼材は引張力には強いが、圧縮力には弱い性質を持つ。圧縮力によって鉄骨が折れる現象を座屈といい、座屈長さが長くなる程、許容圧縮応力度が小さくなってしまう。

 

鉄筋コンクリートはコンクリート中に鉄筋を配筋したものだが、それぞれの役割がはっきりしている。圧縮力はコンクリートが、引張力は鉄筋が負担するものとして計算する。この考え方からも分かる通り、"引張力は鉄筋が負担するものだ"というのは構造設計業界では常識のようなものである。なぜなら鋼材は引張力に強いからである。

 

話が少し逸れたが、要は上下弦材に同じ断面を用いる場合及び、ラチスをすべて同一断面にする場合は、圧縮力に対する検討を行って断面を決めれば良いという事である。

 

トラス梁を設計してみる

では実際に例題を通してトラス梁を設計してみよう。梁の全長はℓ=12,000mmとし、X軸の座屈長さℓkx=1,000mm(ラチス間隔)、Y軸方向の座屈長さℓky=4,000mm(横補剛間隔)、区間長ℓ1=1,000mm(はさみ板間隔)とする。該当の梁は大梁を想定しているが、今回は計算を簡略化する為、長さ12,000mmの単純梁とする。また、負担応力は長期荷重のみとする。

 

1.設計条件・荷重条件・荷重図

 

 

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部材長・荷重条件

 

 

 

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単純梁とする

 

 

長さ関係は上で書いた通り。荷重条件は、平米当たりW=1.0kN/m2とする。梁自重もここに含むものとする。負担幅は6.0m。よって等分布荷重w=W*B=6.0kN/mである。

 

 

 

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負担幅=6.0m、ℓky=4.0m

 

 

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はさみ板の間隔ℓ1

 

2.弦材の使用部材

 

 

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使用部材と断面性能

 

 

次に弦材の使用断面を仮定する。今回は上下弦材とも、2L-75x75x9とした。2アングルの場合、まず単材の断面性能を書き出す。上図で言う"F"~"iv"までがL-75x75x9一枚ものの断面性能。そこにPLの厚みを加え、アングル2丁とした時の断面性能を計算する。

各項目を少し説明すると、

 

・F=材料強度(SS400を想定)

・Λ=限界細長比

・Af=L-75x75x9の断面積(1枚当たり)

・Cx,Cy=L-75x75x9の重心までの距離(1枚当たり)

・Ix'、Iy'=L-75x75x9の断面二次モーメント(1枚当たり)

・ix'、iy'=L-75x75x9の断面二次半径(1枚当たり)

・iv=L-75x75x9の最小断面二次半径(1枚当たり)

・n=部材の枚数

・ΣAf=2L-75x75x9の断面積

・PL=アングルの接合PL厚

・Ix=2L-75x75x9のX軸方向の断面二次モーメント(Ix'*2)

・Iy=2L-75x75x9のY軸方向の断面二次モーメント({Iy'+Af*(PL/2+Cx)^2}*2)

・ix、iy=2L-75x75x9の断面二次半径

・m=つづり材によって組み立てられる素材または素材群(詳細は鋼構造設計基準2005年版P.91参照)

・h=梁成

・j=上下弦材の重心間距離

 

今回梁成はh=1,000mmを想定した。トラス梁は梁成を自由に(建物規模やスパンにもよるが)調整できるというメリットがある。当然、梁成が大きい方が耐力が向上する。上下弦材の重心間距離jは、梁に生じる曲げモーメントを偶力のモーメントに置換する際に使う重要な項目である。偶力のモーメントは、実は構造設計では頻繁に使用している。(こう書くと大げさだが、ただ曲げモーメントを置換しているだけなんだけど)

トラス梁もそうだし、RC小梁でも何気なく使って設計している。RCスラブもそう

 

 

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RC梁の曲げモーメント→偶力のモーメント置換(下端筋引張)

 

 

RC小梁やスラブの設計では、簡略的に許容曲げモーメントMa=at*ft*jとして設計するはずだ。そして、この計算式の中にはjが含まれている。RCでは、jはコンクリートの圧縮縁から引張鉄筋までの距離dの7/8倍として計算する。上図は、単純梁に生じる曲げモーメントをコンクリートの圧縮縁(上面)から引張鉄筋(下筋)の重心距離j(d*7/8)で除して偶力のモーメントを計算する図式を表している。

偶力のモーメントから導き出されるのは、"曲げモーメントを圧縮力と引張力に置換した値"である。最初に書いたように、RC部材は、圧縮力はコンクリートに負担させ、引張力は鉄筋に負担させる。許容曲げモーメントは、引張鉄筋比<釣り合い鉄筋比となる時鉄筋の耐力で決まる。鋼材は引張力に強いので、許容曲げモーメント算出時の許容引張応力度は材料強度"ft"Max取れる

 

最小断面二次半径は、アングル一枚当たりの値を採用する。アングルの最小断面二次モーメントの軸はアングルを45°回転させたとき(V字型にした時)の横軸になる。詳細は鋼構造設計便覧等を参照。トラス梁のように部材が座屈耐力で決まる場合は、最小断面二次半径を用いて細長比を求める必要がある

 

 

 

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トラス梁の成(h)と重心間距離(j)、最小断面二次半径の軸

 

 

 

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偶力のモーメントは曲げモーメントをjで除して求める

 

 

3.細長比の計算と座屈耐力の計算

次に座屈長さから座屈耐力の計算と設計応力の計算から断面算定まで行う。

 

 

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 細長比・fc・設計応力・断面算定

 

 

細長比はまずX軸、Y軸、1軸に対して計算する。λx=ℓkx/ix=1,000mm/22.5mm=44.4、λy=ℓky/iy=4,000mm/34.5mm=115.8、λ1=ℓ1/iv=1,000mm/14.5mm=69.0となる。そこから、λyeを計算する。λyeは、"有効細長比"と言い、λye=√(λy^2+m/2*λ1^2)により計算する。λye=√(115.8^2+2/2*69.0^2)=134.8。ちなみにλ1≦20の時、λye=λyとする事ができる。詳しくは鋼構造設計基準2005年版P.25を参照。

 

次に許容圧縮応力度の計算。最大細長比は、上述のλx、λy、λ1、λyeの最大値を取るので、今回はλyeの134.8を採用する。

λ=134.8>Λ=119.84より、fc=18/{65*(λ/Λ)^2}*F=51.5N/mm2。

 

設計応力は、単純梁より中央の最大曲げモーメントMo=wℓ^2/8として計算。結果、Mo=108.0kNm、またせん断力Q=wℓ/2より36.0kN。せん断力Qはラチスの設計に使う。

 

あとは断面算定を行えば終わり。σc=Mo*10^6/j/ΣAf=44.4N/mm2<fc=51.5N/mm2。よって検定値0.86<1.0: OK。

 

4.ラチスの設計

次にラチスの設計を行う。設計の流れは弦材と同じ。

 

 

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部材長・座屈長さ

 

ラチスの材長及び座屈長さは、ラチスが45°の角度であるためℓ=j*√2=956.6mm*√2=1352.8mmで統一とした。座屈長さが決まれば後は細長比を求めて許容圧縮応力度を算出、設計軸力と比較して必要となる断面を決定する。

 

 

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ラチスの設計

 

各種細長比は上述の通り。使用部材は2L-60x60x5とした。2アングルなので、弦材と同じくX軸及びY軸方向の断面二次モーメントの計算が必要になる。

断面算定結果はσc/fc=43.9N/mm2/59.7N/mm2=0.74<1.0: OKとなる。

 

 

今回扱った非重腹部材の設計方法は、鋼構造設計基準や鋼構造座屈設計指針に詳しい内容が記載されているので参照ください。

 

今回はトラス梁の設計を行いました。

今回はここまで。

ではまた。