どうもimotodaikonです。
最近、基礎関連の記事を多く投稿しており、今回も杭関係の記事を書こうかと思ったのですが、今回は、以前から書きたいと思って手を付けられていなかったブレースについて。(同じ分野の記事ばかりだと飽きるので)
ブレースとは?
今回の本題のブレースとは何か?ブレースというのは、耐震要素の一つです。RC造の耐震壁と同じ役割です。
鉄骨造の建物、特に駅のホーム等で目にした事がある方は多いと思います。バッテン状に柱と柱をつないでいる部材の事です。あれは鉛直ブレースとか軸ブレースと呼びます。何故"鉛直"なのか。それは地面に対して垂直方向に配置しているからです。屋根面に用いる場合は、水平ブレースや屋根ブレースと呼びます。地面に対して"水平"に配置しているから水平ブレース。分かり易いですね。
鉄骨造においては必ずと言ってよい程登場するブレースですが、先述した通り、地震力(正確には風などの水平力全般)に抵抗する役割を担っています。
ブレース構造とは
ブレース構造とは、鉄骨造において100%の水平力をブレースに負担させる、その架構形式の事を指します。
例えば主柱がH形鋼の場合、一般に張間方向はラーメン構造とします。対して桁方向、つまり柱の弱軸方向はブレース構造とする事が一般的です。柱の弱軸方向はラーメン構造とするのは納まり状難しいからです。ブレース構造であれば、柱のウェブ(場合によってはフランジにボルト接合する場合もある)にブレースを溶接するだけで済むので、施工が比較的簡単です。
ブレースは水平剛性が高い
ブレースは水平剛性が高く、ブレース構造は非常に変形しづらく硬い構造です。別名、強度型と言ったりします。地震力に対してガチガチに固めたフレームで抵抗する構造形式です。
一方、ラーメン構造はエネルギー吸収能力が極めて高く、地震力が作用した時、粘り強く変形していく性質を持っています。ラーメン構造のような粘り強く外力エネルギーを吸収する架構形式の事を靭性型と呼びます。
ブレース構造は別名強度型とも言い、水平力を100%ブレースに負担させる形式
ブレースは引張力を負担するものとして設計する
ブレースは一般的に引張力のみを負担するものとして設計します。鉄骨材には「引張力には強いが圧縮力に弱い」という特性があります。ブレースは斜め方向に架ける為、材長が長くなりがちです。材長が長くなる→細長比が大きくなる→座屈しやすくなる→座屈に抵抗できるだけのブレースは大断面になり不経済。と考えられるので、圧縮力は無視して設計します。
ただ、日鉄住金のアンボンドブレースのような、圧縮にも引張にも抵抗できる性能を持ったブレースも存在します。
ブレース構造のメリット・デメリット
ここまでで、なんとなくブレースの役割、ブレースとは何なのかが分かったかと思います。そこでここではブレース構造のメリット・デメリットについて考えます。
・メリット
1.層間変形角が小さい
→先述したようにブレースの水平剛性の高さに起因するもの。変形量を抑えられる。
2.剛性(D値)が大きく、ラーメン方向の偏心率も小さくなる
→剛性バランスの話。両桁面のブレースの配置や断面に大きな差がなければ偏心率は当然小さくなる。
3.柱はH形鋼で、加工が楽で断面も経済的
→基本コラム柱(角型鋼管柱)は両方向ラーメン構造とできるのでブレース構造は採用しません。H鋼の弱軸にGPLを溶接するだけなので施工が比較的楽。
4.接合部の加工が容易
→3に同じ。ブレースと柱との取り合い部は基本GPLの溶接接合による。
5.静定構造であるため、応力解析に仮定断面の必要がなく構造設計が容易
→ラーメン構造のように柱梁の断面仮定が必要なく、ブレースのみ抜き出して設計ができるという事。なので設計が楽。
・デメリット
1.ブレース及び架構は1.5倍した地震荷重応力にて設計しなければならない
→ブレース構造で地震時の計算をする時は、地震力を1.5倍して計算しなければならない。ただし、設計ルート1の場合はCo=0.3で計算するので1.5倍の必要はなし。
2.ブレースの数、位置により引き抜き力が大きくなる
→ブレース断面が大きかったり、柱スパンが短い箇所にブレースを配置する場合等は、柱脚に作用する引き抜き力が大きくなる。
3.接合部の設計が煩雑
→ブレースの接合部は保有耐力接合(母材の降伏前に接合部が破断しないように設計する)を満足する必要がある。設計内容としておおまかに、①ブレース軸部の検討、②接合ボルトの検討、③ボルトの端抜けに対する検討、④GPLの検討、⑤溶接部の検討がある。
4.デザイン、開口部が制約を受ける
→意匠・構造設計者の悩みどころ。ブレースの配置によっては開口部が潰される場合もある。構造設計者は開口部を避けてブレースを配置する配慮が必要。
上記のメリット、デメリットは「第3版_実務から見た鉄骨構造設計」から引用しました。同書は構造設計初心者でも分かり易いよう、設計方法を踏まえて解説してある良書。実務経験者にもおススメ。
ブレースの検討方法
ここからは鉛直ブレースを例題に、ブレースの検討方法を解説していきます。
検討モデルを以下に示します。
ブレース構面のモデル
ℓ=6,000mmの3スパン、高さh=4,000mmの3構面ブレース架構を想定し、地震荷重が作用した時の検討を行います。
まずブレースと接合部の仮定から。
ブレース:2L-65x65x6(SS400)→A=1,505mm2
接合部 :GPL-6 HTB 3-M20@60(F10T)→Qas=47.1kN/本(ボルト短期せん断耐力)
接合部詳細
続いてブレースの有効断面積の算出を行います。
ブレースにアングルや溝形鋼を用いる場合、断面とボルト本数に応じて有効断面積の低減を行う必要があります。これは、アングルや溝形鋼には突出部脚部と呼ばれる断面に有効とみなせない部位が存在する為です。有効断面積の計算式は上式によります。結果、有効断面積Ae=851.0mm2となります。
突出脚部の無効部分と有効断面部分
断面性能一覧、設計条件のまとめ
断面性性能等をまとめます。
・母材はSS400なのでF=ft=235N/mm2。
・A及びAeは上で書いた通り。
・doはボルトの呼び径+2mmとし、22mm。
・nBはブレース本数の事。今回背合わせアングルの為2枚。
・hnはアングルと溝形鋼でボルト3本以上になると計算式が異なる点に注意。今回はボルト3本を想定しているのでhn=0.5h=32.5mmとなる。
・設計荷重は、地震力200kNを想定。
ブレース・接合ボルトの断面算定
設計条件が揃ったので断面算定を行います。
まずはブレースの検討から。
ブレースの引張力に対する検討を行います。まず、必要な情報としてブレースの構面数、部材長Lが挙げられます。
ブレースの構面数は今回は3構面。単純に柱間にブレースが何本入っているかを考えればよいです。また、ブレースの部材長は三角関数よりL=√(ℓ^2+h^2)=7211.1mm。あとは地震時の応力割増係数α=1.5を考慮して断面算定を行います。
ブレース1本当たりに作用する引張力はT=120.2kNとなりました。この値を有効断面積で除して許容引張応力度でさらに除して検定値を求めます。結果0.6<1.0…OKです。
次に接合部の検討。
接合部の検討はシンプルです。先ほど求めた引張力をボルトの許容せん断耐力x本数で除す。これだけです。結果0.85<1.0…OKです。
以上で検討は終わりです。本来であれば、保有耐力接合の検討を含めてブレース断面・接合部を決定するのが筋なのですが、今回は大まかな設計の流れについて解説しました。
今回はここまで。
ではまた。