ブレース②水平剛性による応力分配

どうもimotodaikonです。

 

今回も前回に続きブレースについて考えます。内容は、ブレースの水平剛性とブレースの負担せん断力の関係性について。

 

ブレースの水平断剛性とは

まず、水平断剛性とは何か。水平剛性というのは、剛性と名のつく通り固さの指標ですが、中でも水平力(せん断力)に対する固さの事です。この水平剛性は、ブレースの長さや断面、角度によって変わってきます。

 

水平剛性に応じて応力配分は変わる

ブレースを配置する柱間スパンの違いや、高さの違いにより、水平剛性は異なりますが、水平剛性が異なる事でブレースの負担せん断力も変わってきます。構造設計の基本的な考え方の一つに、固い部材程大きな力(応力)を負担する、というものがあります。ブレースについても同様で、水平剛性が大きい部材程、より大きなせん断力を負担する事になります。

 

水平剛性の求め方

ここからは実践編ですが、水平剛性の求め方について解説します。水平剛性の算出式は以下によります。

 

K=(E・A/L)・cos^2θ

E:ヤング係数

A:ブレースの断面積

L:ブレースの材長

cosθ:ブレースの角度成分

 

角度成分と部材長、断面積が影響する事が分かります。特に重要なのがブレースの角度。ブレースは一般に30°〜45°程度の範囲で配置するのが良いと言われています。理由は単純でその範囲内が一番効きが良いから。実務では上記の範囲をを超える場合、下回る場合も当然ありますが。あくまで目安として覚えておいて損はないと思います。

 

本来はブレースの水平剛性に応じて負担応力を求めるのが正しい設計

水平剛性に応じてブレースの負担せん断力は異なると述べましたが、実務では水平剛性を計算して、せん断力の振り分け計算は省略する事が多いです。(少なくとも私は)普通ブレース構造だと、桁行方向の柱スパン間に何構面かのブレースを配置する事になります。柱スパン及び高さ等の水平剛性に関わる全ての条件が同じであれば地震力等の水平力をブレースの構面数で割れば各ブレースの負担するせん断力は求められます。

ただ、実務ではそのような場合でない事が遥かに多いです。つまり地震力を負担する列内のブレース長、角度が不均一である場合が多いという事。

ではどのように設計しているかというと、設計上最も不利となりそうなブレースを代表で抜き出して、あとは構面数で割って負担せん断力を求めて設計します。しかし、本来であれば剛性比によって負担せん断力は変わるはずなので、これは正しくない設計方法です。なので今回は、実際にブレースの水平剛性を算出し、各ブレースの負担せん断力を算出してみたいと思います。角度成分による影響も明確になるはずです。

 

ブレースの水平剛性の算出

ではブレースの水平剛性の計算を行いたいと思います。下記に示す①~④が水平剛性を求める上で必要となる条件です。①~⑦まで順を追って説明します。

 

①ブレース構面数、スパン、高さの仮定

②ブレース長の計算

③ブレース断面(断面積)の計算

④ブレースの傾斜角の計算

⑤ブレースの水平剛性の計算

⑥負担せん断力の計算

⑦計算結果のまとめ

 

①ブレース構面数及びスパン、高さの仮定

ブレース構面は9構面とし、中央の構面であるV5(θ5=45°)を基準に水平剛性の比較を行います。よってV5の傾斜角が45°となるよう、スパンℓ5及びh=5000mmとします。

 

 

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ブレース構面数(9構面)とスパン・高さ

 

②ブレース長

ブレース長は以下の計算式で求めます。

 

L=√(ℓ^2+h2)

 

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ブレース長一覧

 

③ブレース断面(断面積)

ブレース断面は2L-65x65x6とします。断面積はA=1505.0mm2。

 

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ブレース断面は水平剛性の比較がしやすいようすべて統一

 

④ブレースの傾斜角

ブレースの傾斜角を求めます。

θ1~θ9までがブレースの傾斜角です。比較検討の基準となるV5を45°とし、それより左右のブレース(V1~V4、V6~V9)は5°刻みで角度を増減させます。傾斜角はアークタンジェントで求めます。三角関数の基本ですが、私はすぐ忘れます。三角関数は構造設計では意外と使うので、構造設計者を目指している方は覚えておいた方が良いです。

蛇足ですが、エクセルで角度を算出する時は以下の関数を用いれば求められます。

 

θ=ATAN(h/ℓ)*180/PI()

 

cos^2θは水平剛性算出に必要です。算出式は単純ですね。(スパン/斜長)^2で求めます。

 

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傾斜角一覧

以上で条件は揃ったので水平剛性計算を行います。

 

⑤ブレースの水平剛性算出

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計算結果を見るとブレースV1~V5までの水平剛性は大体近しい値となっています。V6~V9、つまり傾斜角が45°を超えるにしたがって水平剛性が徐々に低下していき、傾斜角45°と65°の水平剛性は2倍以上の開きがある事が分かります。ブレースの効きという観点で見れば、傾斜角を30°~45°とするのが望ましいと言うのもあながち間違っていなさそうです。

各ブレースの水平剛性が求められたら、次は負担せん断力の算出に進みます。

 

⑥負担せん断力の算出

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各ブレースの負担せん断力の算出

 

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負担せん断力の一覧図

 

水平力Q=1000kNを上図のブレース架構に作用させた時、各ブレースの水平剛性に応じてせん断力が分配されます。⑤で算出した水平剛性ですが、剛性が高い部材程より大きなせん断力を負担している事が分かります。

ブレースを設計する上で引張力の計算は必要不可欠なので、各部ブレースに作用する引張力の計算結果を以下にまとめます。

 

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各ブレースに作用する引張力(負担軸力)は、傾斜角によって決まる

上の表を見ると、傾斜角45°のV5ブレースに作用する引張力が最大となり、角度が5°増加及び減少するに伴い、引張力(負担軸力)も減少していく事が分かります。ここで注目したいのが、各ブレースに作用する引張力は水平剛性に依存しないという事。角度成分によって決定づけられるという事です。例えばV4(θ=40°)とV6(θ=50°)に作用する引張力を比較した時、水平剛性はK4/K6≒1.2倍の違いがあるにも関わらず、どちらもT=175.7kNと同じ値となっています。これらを踏まえ検討結果をまとめます。

 

⑦計算結果のまとめ

 

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傾斜角を35°~55°程度の範囲にするのが、負担軸力を均一にする観点から望ましい


1.水平剛性の比較

傾斜角45°を基準とした時、35°が最大値で約1.09倍、65°が最低値で約0.46倍となる。

2.負担せん断力の比較

負担せん断力は水平剛性に依存する事が分かる。比率は上述の通り。

3.負担引張力(負担軸力)の比較

負担軸力はブレースの傾斜角に依存する。負担軸力をできる限り均一にしたいのであれば、傾斜角を35°~55°の範囲とするのが望ましい。(引張力Tの比率0.94~1.00より)

 

今回はブレースの水平剛性計算・水平剛性と負担せん断力の関係性についてみてきました。参考にした書籍のリンクを張っておきます。この記事よりよっぽど信頼できる内容になっているので持っておくことをお勧めします。

 

 

ではまた。