剛床とは

どうもimotodaikonです。

今回は、剛床について考えます。

 

剛床とは

"剛床"とは、構造設計において非常に重要な概念であり、通常、剛床仮定を元に構造設計は行われる。"剛"な"床"と書いて、"ごうしょう"と読む。簡単に言うと、硬い床の事。もっと簡単に言うと、水平荷重を加えてもびくともしない無限の水平剛性を持った床の事を指す。要は一切変形しない床と考えてもらえば良い。

上でも書いたが、基本的に剛床仮定の基に構造設計は行うのが慣例である。剛床という概念を抜きにして構造設計を語る事は出来ない。剛床仮定というのは、RC建物であれば、RCスラブが剛床であると仮定し計算を行う事を言う。現実には無限の水平剛性を持つ部材は存在しないので、あくまで"仮定"ではあるが、RCスラブは十分な水平剛性を有しているので、剛床仮定は成り立つものと考えてよいものとしている。また、剛床が成り立つのはRCスラブのみではない。S造の水平ブレースでも、水平剛性が十分見込めるのであれば剛床仮定とする事自体に問題はない。

 

剛床仮定のメリットは?

構造設計では一般的に"剛床仮定"の基、計算が行われているが、剛床を仮定する事のメリットについて考えたい。先に答えを書いてしまうと、剛床仮定を行うと、"各節点の水平変位量が同じになる"という事が挙げられる。剛床は、無限の水平剛性を持つ床。つまり水平方向に押しても、床自体は変形せず、床ごと荷重方向にそのままスライドするような挙動を示す事になる。

 

 

f:id:imotodaikon:20211012015924j:plain

剛床の概念図

 

これが意味するところは、床が取り付く節点、上図で言うと8つの節点の水平変位量が等しくなるという事だ。上図は、S1(RCスラブ)を剛床と仮定し、Y方向に水平力を加力した時の図である。元の節点位置が黒丸(●)、水平力加力時の移動先の節点を赤丸(●)で示している。剛床仮定が成立すると考えると、理論上、上図のように各節点の変位量が全て等しくなる。何故なら、仮定している床は一切変形しない"剛床"だからだ。

 

硬い部材に応力が集中する理由

構造設計では、硬い部材、いわゆる剛性の高い部材程、負担応力が大きくなると考える。設計に一度でも携わった人は当たり前のように持っている感覚だが、これも剛床仮定が前提にあると考えられる。

 

剛床仮定が成立する床では、節点の水平変位量が等しくなる。これは言い換えれば、どのフレームを抜き出しても同じ変位量を示すという事だ。建物は多くのフレームによって構成されるが、剛床仮定の下では全てのフレーム(節点)の変位量が同じであるとみなす事ができる。つまり、剛床仮定にフレームの剛性は関係ない。例えば、上図の内、1フレームだけ他のフレームの2倍の剛性があったとする。水平荷重が建物に加わった時、全8つの節点の変位量はどうなるだろうか?答えはすべて同じ変位量になる。何故なら剛床が成り立つと仮定しているから。

これが剛性の高い部材に応力が集中するという疑問に対する答えだ。どのスパンを取り出しても節点の水平変位量が等しいという事は、他のフレームより2倍の剛性を持つフレームには、他のフレームと比べて2倍の水平力が掛かっている(負担している)と考えられる。そうでないとすべての節点の変位量が等しくならない。

 

剛床が成立しない場合はあるのか?

剛床は常に成立する訳ではない。例えば、鉄骨造のR階を折板葺きとした場合は、水平ブレースを配置する事になるが、ブレースに十分な水平剛性がないと判断される場合には、剛床仮定は成り立たないものと考えるべきだろう。また、RC造においても、吹き抜けに面する柱などは、周囲をRCスラブで固定されていない為、スラブによる水平力の伝達が期待できない。この様な場合も同様に、剛床は成立しないものとして計算する事が多い。このように剛床が成り立たない節点は、電算で"剛床解除"を指定する。

 

電算で"剛床仮定"を指定した時、全ての節点の変位量は同じになるのか

ここまで剛床の意味や、成立条件について考えてきたが、実際に電算で建物をモデル化し、"剛床仮定"が成立するものとして解析した時、"全ての節点の水平変位量は本当に同じになるのか"という事について考えた時、恐らくそのような状態になる事はありえない。実際、私が今まで構造設計をしてきた物件を思い返しても、変位量が全く同じになった経験はない。

 

"剛床仮定の基、構造計算を行うと全ての節点の水平変位量が同じになる"というのは、あくまで理論上の話であって、現実にはありえない。

 

建物には"重心""剛心"というものがある。"重心""重さの芯"の事で、日常でも比較的耳にする事の多い言葉だと思う。建物にも"重心位置"があって、荷重のかかる位置や建物形状などによって重心位置は変わってくる。"剛心"というのは、"硬さの芯"の事で、耐震要素である耐震壁やブレースの配置、柱梁の剛性などで位置が決まる。建物に地震力が作用した時、"地震力は重心に作用し、剛心を起点に回転しようとする(ねじり力)"。この"ねじり力"が、各節点の変位量に影響を及ぼす。つまり、剛床仮定としても全ての節点の水平変位量は同じにならない。

 

建物形状が真四角で、重心位置と剛心位置がぴったり同じなら節点変位も等しくなるかもしれないが、基本的にどのような建物でも微小な偏心は生じるので、限りなく等しい値に近づくことはあっても、イコールになる事はないと考えてよいと思う。

 

今回は剛床について考えました。

ではまた。