鉄骨造の設計_許容曲げ応力度の算出

どうもimotodaikonです。

今回は、鉄骨造の許容曲げ応力度の求め方、曲げ応力に対する検討方法について考えます。

 

許容(曲げ)応力度とは?

許容曲げ応力度とは、部材が耐えられる曲げ応力度の事である。"部材が耐えられる"とは、"部材を弾性状態でとどめる"と言い換える事ができる。部材を弾性状態でとどめる(塑性させない)ように設計する事を弾性設計とか許容応力度設計という。これは"曲げ"だけでなく、"圧縮"、"せん断"についても同じ。部材に生じる圧縮力は"許容圧縮応力度"、せん断力は"許容せん断応力度"以下であることを確認する。これが許容応力度設計(弾性設計)。

 

設計ルートが1の場合、許容応力度設計法により計算を行う事になる。逆に言えばそれだけでお終い。部材が許容応力度以下であることさえ確認できれば良いのである。ただし、設計が楽な代わりに"地震力を1.5倍しなければならない"という制約がついてる。ルート1で設計する場合は、部材がある程度大きくなる事は覚悟しておかなければならない。

 

構造設計で最も主流(採用実績が多い)なのはルート3による計算だろう。これは、一次設計、二次設計の二段階の計算段階を踏む設計ルートで、一次設計が上で書いた許容応力度設計、二次設計が部材にヒンジができる事を許容し、大地震が来た時でも建物が崩壊しない事を確認する(崩壊系を確認する)設計方法。要は塑性設計法

 

許容曲げ応力度の算出方法

少し話がそれたので本題に戻す。許容曲げ応力度の算出式は以下による。

 

fb1=89000/(ℓbxh/Af)…①式

fb2={1-0.4x(ℓb/ib)^2/Λ^2}xF…②式

 

許容曲げ応力度の算出式には、①と②式の2つがあり、このどちらか大きい方を取って良い事になっている。実務では、計算が楽な①で計算してfbを設定する事が多い。大きい方を取って良い訳なので、①と②式のどっちが大きいかを比較する必要はない。①式の計算結果が②式より小さければ安全側の評価、仮に①式の結果が②式より大きくても、"大きい方を取ってよい"ので別に問題はないからだ。

では、H形鋼の梁を元に計算例を以下に示してみる。

 

鉄骨梁の設計

ここでは鉄骨梁を仮定し、実際に検討を行ってみる。検討荷重は"長期"とし、曲げモーメントに対して部材が持つことを確認する。(曲げモーメント<長期許容曲げ応力度である事を確認する)

 

〇設計条件(※ここでは曲げの計算に使用する断面性能以外は省略する)

使用部材:H-294x200x8x12(SS400)

材料強度:F=235N/mm2

断面性能:h=294mm

                  Af=12x200=2400mm2

                  Zx=756x10^3mm3

                  Zy=160x10^3mm3

                  ib=53.8mm

限界細長比:Λ=119.84

部材長 :ℓ=5,000mm

座屈長さ:ℓb=2,500mm

設計荷重:W=6.0kN/m2(長期荷重:自重含む)

負担幅 :B=3.0m

設計モデル:単純梁(荷重は強軸に作用する)

 

・設計荷重の算出

w=WxB=6.0x3.0=18.0kN/m

 

・設計応力(曲げモーメント)の算出

M=wℓ^2/8=18.0x(5,000/10^3)^2/8≒56.3kNm

 

・許容曲げモーメントの算出

 

fb1=89000/(ℓbxh/Af)/1.5

      =89000/(2,500x294/2400)/1.5≒193.7N/mm2

 

fb2={1-0.4x(ℓb/ib)^2/Λ^2}xF/1.5

   ={1-0.4x(2,500/53.8)^2/119.84^2}x235/1.5≒147.2N/mm2

 

fb1>fb2よりfb1を採用する。ただし、fb1>F/1.5の為、fb=F/1.5とする。

 

・断面算定

σb=Mx10^6/Zx=56.3x10^6/(756x10^3)≒74.5N/mm2<fb=235/1.5=156.7N/mm2

検定値:0.48<1.0 :OK

 

断面算定結果について

以上が鉄骨単純梁の曲げ応力に対する検討である。"許容曲げモーメント"の算出項で、fb1とfb2の大小関係を比較し、大きい方の値であるfb1を採用した。ただ、fb1は鉄骨の材料強度であるF=235/1.5=156.7N/mm2を超えていたため、F/1.5を上限として設計したFとは、材料強度、もしくは降伏強度と言い、簡単に言うと部材の弾性限界値の事である。この値を超える事は部材が塑性する事を意味する。

上でも書いた通り、許容応力度設計では、部材が塑性する事を許容しない。よって、許容応力度は材料強度以下でなければならない。

 

補足

上式①、②はによる許容曲げ応力度は、曲げ座屈(横座屈)の影響を考慮して定められている。圧縮力による座屈ではなく、曲げ応力による座屈。これを曲げ座屈または横座屈と呼ぶ。ちなみに、角型鋼管や鋼管、プレート(PL)などは、曲げ座屈は生じない。よって、許容曲げ応力度=F値Max取れる。①、②式による計算は、もともとH形鋼に対する計算方法として設定されたという経緯がある。"鋼構造設計基準"に記述があるので紹介する。

 

"旧設計基準ではこれら(5.1.2)式、(5.1.3)式の大きいほうで許容曲げ応力度を与えていた。簡単のため(5.1.2)式、(5.1.3)式の簡略式を用いてもかまわないが、H形断面を対象として誘導されていることに注意しなければならない"(構造造設計基準2005年版P.53より)

 

(5.1.2)式とは、fb2の式、(5.1.3)はfb1の式の事である。S基準には、これらの式は"簡略式だ"と書いてある。そして"H形断面を対象として誘導されている"とも書いてある。つまり、上記で示した許容曲げ応力度の算出式は、「設計って計算が楽な方がいいでしょ。しょうがないから簡略式としても使っていいよ。ただし、H形鋼を元に設計された計算式だから気を付けてね。」という事である。まあ、基準に使って良いって書いてあるんだから気にせず使えばいいんだけど。ちなみにRCチャートでは、許容曲げ応力度算出方針として"旧基準による"のチェックボックスがある。現行の許容曲げ応力度計算式でNGとなる場合は、旧基準で設計してみてもよいのでは。

 

今回は鉄骨部材の許容曲げ応力度について考えました。

ではまた。