鉛直震度について考える

どうもimotodaikonです。

今回は鉛直震度について考えます。

 

鉛直震度とは

鉛直震度は、上下方向、3次元をXYZ方向で表した時のZ方向に、突出した部材に局部的な力が掛かる事を言う。そして、突出部は鉛直震度を考慮したうえで断面算定を行わなければならない。"震度"という言葉通り、地震時の縦揺れに対して部材が上下方向に揺さぶられる場合を想定した検討の事。

 

鉛直震度を考慮して検討しなければならない部材

鉛直震度については、考慮して設計"すべき"ではなく、"しなければならない"という認識が正しい。詳しくは黄色本などに記載されているが、部材長によって検討しなければならない・しなくても良いの区別がなされている。

 

鉛直震度を考慮して検討しなければならない部材は、建物から水平方向に突出している部材で、かつ外壁面からの部材長が2.0m以上の部材が該当する。片持ち梁や片持ちスラブ等がこれに当たる。いずれも、共用住宅等では外部廊下として使ったり(もしくは廊下を受けたり)、階高中間の庇受けとして設ける片持ち梁だったり、バルコニーとして用いる片持ちスラブ等、目的や用途は様々である。重要なのは、外部に(地面と水平方向に)突出しているという事である。

と言っても、2.0m以下でも検討する事は多く、むしろ検討しない事の方が少ないといっていいかも。構造設計では最悪の場合を想定して、出来るだけ安全に設計するのが基本だから。

 

検討方法について

鉛直震度の検討方法は簡単で、次の2パターンが考えられる。

 

①長期+地震の短期設計を行う。

②鉛直震度では長期荷重+1.0Gの地震と、鉛直荷重が2倍になる事から、長期設計として検定値に余力を見込む。(厳密には積載荷重が長期(床用)と短期(地震用)が違うので純粋に2倍にはならないのだが、計算を簡単にするために長期の積載荷重をそのまま使用することが多い)

 

一般に②の方法を採用する事が多い。その方が作業が楽なので。

 

実際に検討してみる

鉛直震度の説明はここまでにして、例題を解いてみたい。

 

 

 

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鉄骨屋外階段の例(倉庫とか工場でよく見る)

 

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階段受けCG1

 

 

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階段断面図

 

 

上図より、CG1を検討する。CG1の部材長ℓはℓ=2,000mm、負担幅B=6,000mmとする。

 

 

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設計条件(荷重条件)

 

 

上は設計条件をまとめたものである。まず荷重条件から見てみる。

階段荷重としては、

モルタル30mm(20kN/m3*30mm=600N/m2)

②踏板PL-6mm(78.5kN/m3*6mm=471N/m2→500N/m2)

③ササラ桁PL-12mmx300mm(78.5kN/m3*12 mm*300mm/1000=282.6N/m2→300N/m2)

④手摺=200N/m2

D.L=①+②+③+④=1600N/m2となる。

 

ちなみに鉄骨階段は、上で書いているようなモルタル仕上げの他に、チェッカープレートを使ったものも多い。仕上げをチェッカーにする時は、受け材としてアングルを使うことが多い。

 

階段の積載荷重は、「集会室(その他)」より、

床用:3500N/m2、架構用:3200N/m2、地震用:2100N/m2とする。小梁用は床用の値3500N/m2を採用する。

 

以上より、

長期荷重用のトータル荷重はWL=D.L+L.L=5100N/m2。

短期荷重用のトータル荷重はWs=D.L+L.L=3700N/m2。

 

単位m当たりの荷重もここで算出しとこう。

長期wL=WL*B+p(鉄骨自重)=5.1kN/m2*6.0m+0.4825kN/m≒31.2kN/m。

短期ws=Ws*B+p(鉄骨自重)=3.7kN/m2*6.0m+0.4825kN/m≒22.8kN/mとなる。

 

 

 

 

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使用部材と許容応力度の算出

 

 

次に使用部材についてまとめる。使用部材はH-350x175(SS400)とした。許容曲げ応力度fbは、89000/(ℓb*h/Af)>F/1.5=156.7N/mm2となるため、fb=156.7N/mm2を採用。許容せん断応力度はF/√3/1.5=90.5N/mm2。

尚、断面性能にR部分は無視した。実際の断面性能とそんなに大差ないし、安全側の設計にはなるので問題ない。

 

 

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断面算定

 

 

最後に断面算定を行う。今回の検討ではパターン①短期の設計を行ってみる。

 

パターン①_短期設計を行う

 

片持ち梁で等分布荷重時の最大曲げモーメントは、元端がMaxとなる。ML(元端)=wL*ℓ^2/2=31.2kN/m*2.0m^2/2≒62.2kNm。せん断力は単位m当たりの荷重に長さを掛けるだけなので、QL=wL*ℓ=31.2kN/m*2.0m≒62.2kNとなる。

 

設計応力が出たので、後は使用部材の断面性能を使って断面算定。まずは長期に対する検討を行う。

 

①長期

1.曲げモーメントに対する検討

σbL=ML*10^6/Zx=62.2kNm*10^6/749912.5mm3≒82.9N/mm2<fb=156.7N/mm2より、検定値:0.53<1.0:OK

 

2.せん断力に対する検討

τL=QL*1000/Aw=62.2kN*1000/2296mm2≒27.1N/mm2<fs=90.5N/mm2より、検定値:0.30<1.0:OK

 

3.組み合わせ応力に対する検討

曲げとせん断の組み合わせ応力は、√{(σb/fb)^2+(τ/fs)^2}による。ちなみに曲げと軸力ならσb/fb+σc/fc(σt/ft)である。

 

よって、√{(σbL/fb)^2+(τL/fs)^2}=√{(0.53)^2+(0.30)^2}=0.61<1.0:OK

 

次に短期荷重に対する検討を行う。検討の流れは長期と同じなので詳細は省略。結果は、

 

②短期

1.曲げモーメントに対する検討

σbs/fb*1.5=0.61<1.0:OK

 

2.せん断力に対する検討

τs/fs*1.5=0.35<1.0:OK

 

3.組み合わせ応力に対する検討

√{(σbs/fb*1.5)^2+(τs/fs*1.5)^2}=√{(0.61)^2+(0.35)^2}=0.70<1.0:OK

 

以上より、CG1の断面はOKという事が証明できた。これが鉛直震度の検討である。

普通、地震時の検討であれば、標準せん断力係数Co=0.2を部材が負担する重量に乗じて設計する。しかし、鉛直震度の計算では地震時でも床荷重を低減することなく、W=Ws*Co=1.0とする。要は鉛直震度を考慮する部材は、"負担荷重をせん断力係数で低減せず、1Gかけて検討する"という事ができる。

 

 

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鉛直震度を受ける部材の挙動

 

 

鉛直震度を受ける突出部は、地震力がもろにかかるものと想定している。上図では、CG1が地震力を受けた時の挙動を示している。地震が起きた時、このような突出部は上下方向に激しく揺さぶられることがイメージできる。

 

片持ち梁や片持ちスラブといった部材は、接合箇所(支点)が一か所しかない。もし、この接合箇所が壊れたら、部材が落下する危険性がある。非常に不安定な架構なのだ。このような部材を不静定次数が低い部材と呼ぶ。

よって、構造設計では安全側に力を割り増して断面算定を行う。大地震が来てもくれぐれも部材が落下しないようにするためだ。

 

上ではパターン①の検討(短期の設計)を行った。ではパターン②について考えたい。

 

パターン②_長期の検討を行い、検定値に余力を見込む、もしくは応力を割増す

 

パターン②は非常にシンプル。長期荷重に対する検討を行い、検定値に余力を見込むor応力を割増すというやり方である。

 

例えば鉄骨で400N/mm2級の部材を使用する場合、長期の許容曲げ応力度fbはMaxでF/1.5=156.7N/mm2。短期はその1.5倍のfb=F=235N/mm2である。この比率は、490N級でも同じ。すなわち、鉛直震度を考慮する時、"設計荷重は2倍になるが、許容応力度は1.5倍が上限である"、と言いかえる事ができる。

 

逆に言えば、短期の検定値は、長期検定値の2/1.5=1.33倍になるという事ができる。

 

上で計算した例を元に計算してみよう。

 

長期の組み合わせ時の検定値は0.61。これに1.33を乗じると、0.61*1.33=0.81となる。0.81<1.0なのでOK。これで検討終わりである。

もしくは、検定値を1.0/1.33≒0.75未満にする。と考える事もできそうだ。応力を1.33倍するか、逆数の1.33^-1を1.0に掛け、0.75を検定値の上限とするか、考え方が違うだけでやってることは一緒だからどっちでもOK。

 

 

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0.75未満なのでOK

 

この手法はよく用いられる。上でも書いた通り、厳密に言えば長期と短期の積載荷重が違うので、長期荷重の2倍の値がCG1にかかるわけではない。でも荷重を多めに見込んで検討しておけば安全側の設計になるので問題はない

 

ちなみに、RCの場合、鉄筋の許容応力度は長期と短期で1.5倍の関係とはならない。

 

・SD295の場合、ftl=195N/mm2、fts=295N/mm2、比率約1.5倍

・SD345の場合、ftl=215N/mm2、fts=345N/mm2、比率約1.6倍

・SD390の場合、ftl=195N/mm2、fts=390N/mm2、比率2.0倍(D29以上)

 

比率が2.0倍に近づく程、余力があるとみなす事ができる。まあ、RCの場合でも鉄筋の材料強度に関わらず検定値が0.75未満で設計しておけば問題ない。

 

という事で今回は鉛直震度の検討を行いました。

ではまた。