構造設計における支点について考える

どうもimotodaikonです。

今回は構造設計における支点について考えます。

 

支点とは?

構造設計には支点というキーワードが存在する。支点がないと建物は成り立たないし、小梁や間柱等の二次部材も設計できない。支点は、部材が受けた力が行き着く場所の事だ。例えば小梁を例にとって考えてみよう。下図のような単純梁に等分布荷重がかかっているとする。

 

 

f:id:imotodaikon:20211212135952j:plain

 

荷重図(単純梁)

 

 

 

f:id:imotodaikon:20211212140136j:plain

 

反力図

 

 

等分布荷重w=1.0kN/m,梁の材長ℓ=5.0mの時、支点に伝達される鉛直荷重はP=w*ℓ/2=2.5kNとなる。支点は部材が受けた荷重の受け皿となり、荷重を逆向きに返す。これが支点反力である。支点反力は、一般的に鉛直方向は"V"、水平方向は"H"、曲げモーメントは"M"で表記する。

荷重と支点反力が釣り合っている事が、構造部材が成立する事の大前提と言える。

 

 

構造設計では力の流れ、伝達方向・方法を考える

構造設計では、力の流れを考える事が非常に重要で、それこそが構造設計の本質と言ってもいい。部材が受けた力の伝達先に受け材があるか?支点と支点が重なっていないか?どこにどんな応力が発生するか?を考えなければ構造設計とは言えない。

例えば下図のような架構があった時、力がどのように伝達されるかを考えてみよう。

 

 

f:id:imotodaikon:20211212140249j:plain

 

力がどのように伝達されるか考える

 

図中矢印はデッキスラブの方向を示している。また、Cは主柱、Gは大梁、Bは小梁を示す。ちなみにそれぞれのアルファベットはそれぞれの意味する英語の頭文字をとっている。C="Column(コラム)"、G="Girder(ガーダー)"、B="Beam(ビーム)"。

 

Bには等分布荷重がかかっている。負担する荷重は床上仕上げ荷重+積載荷重+床の自重+小梁自身の自重だ。Bの両端には大梁Gが控えている。つまりBが負担する荷重は下図のように伝達されると考えられる。

 

 

f:id:imotodaikon:20211212140906j:plain

 

小梁の支点=大梁

 

上図の赤枠の範囲は小梁が負担する床面積を表している。この荷重は均等に左右の大梁に集中荷重として伝達される。太矢印は小梁の反力位置を示している。

 

 

 

f:id:imotodaikon:20211212141157j:plain

小梁から大梁へ、大梁から主柱へ

 

ではその後の荷重の流れを追ってみよう。小梁の反力を受けた妻面の大梁は、集中荷重を受ける。妻面大梁は、両端が主柱につながれている。よって、負担した荷重は主柱へと伝達される。

桁面の大梁は、小梁が負担しきれなかった床荷重を負担し、妻面大梁と同じく両端が主柱と接合している為、その荷重は主柱へと引き継がれる。


よって荷重は基本的に小梁から大梁へ、大梁へ主柱へと伝達されるものと考える事ができる。

 

 

別の架構で力の流れを追ってみる

では、今度は妻面に片持ち庇がある場合を想定して荷重の流れを追ってみたい。架構は下図の通り。

 

 

 

f:id:imotodaikon:20211212142227j:plain

 

片持ち庇ありの架構

 

 

上図を見ると、妻面大梁から片持ち庇を受ける為の梁、CBが跳ねだしている。大梁の弱軸方向にCBが取り付く為、裏には控え梁が必要だ。よって、CBの反対側にはB2を配置する。こうすると力の流れがスムーズになる。もちろん、大梁のねじり抵抗に期待してB2を入れないという選択肢もある。しかし、その場合大梁が負担する荷重は長期荷重+ねじり応力or長期荷重+地震荷重(風荷重)+ねじり応力(長期と短期の不利な方)になるので、設計がかなり困難になる。庇の出が小さく、大梁のねじり抵抗で十分処理できるなら話は別だが、基本的に上図の場合は片持ち梁の裏に受け小梁を入れるのが一般的だ。

 

 

 

f:id:imotodaikon:20211212142945j:plain

 

小梁の荷重の負担面と荷重の伝達位置

 

 

 

床荷重はまず小梁が受ける。片持ち庇は折板方向がX方向なので、B1二本で荷重を分担する。そしてその荷重はCBへと伝達される。本体側を見ると、縦に一本B3が入っている。床の流れ方向はX方向なので、B3が床荷重を負担し、両側の大梁へ荷重が伝達される。

 

この架構で特殊なのは、やはり片持ち庇の部分だろう。なので、上図青枠で示した部分を抜き出して荷重と支点反力がどのように釣り合っているのか見てみよう。

 

 

 

f:id:imotodaikon:20211212143454j:plain



片持ち部分の荷重位置と支点反力の状態

 

 

これが青枠の部分を抜き出した架構である。各支点にA,B,Cの符号を割り振った。A-B間がB2、B-C間がCBを表している。まず、片持ち梁CBの先端にはB1が受けた荷重が伝達される。これをP1と定義づけよう。同じく、二本目のB1(妻面大梁側)も折板を受け、その荷重をCBに伝える。よってCBには二点の集中荷重が作用する事になる。

 

この架構が成り立つためには、支点Aと支点BでP1とP2の荷重を支える事が必要だ。つまりVA+VB=P1+P2という式が成り立つ。この時、庇荷重は妻面大梁G及び、控え梁B2の接合先の部材であるB3が支持する形になる。

 

 

 

f:id:imotodaikon:20211212144310j:plain

 

力は四隅の主柱へ伝達

 

最終的に力の行き着く先は、四周にある主柱だ。主柱へと伝えられた力は、下階の主柱へと伝達され、柱脚→基礎→地盤という流れをたどる。この力を追う仕事というか、どのように力を伝えるか?を考えるのが構造設計の仕事である。

 

 

ダメなパターンを考えよう

力の流れはなんとなく理解できた。基本的に小梁→大梁→主柱→柱脚→基礎→地盤の流れだ。では、架構が成り立たないパターンはどのような場合が考えられるだろうか。よくありがちなのは、支点が重腹している場合だろう。上で用いた片持ち庇付きの架構を使って考えてみる。

 

 

 

f:id:imotodaikon:20211212145029j:plain

 

庇受け部材が全てピン

 

上図では庇を受ける部材が全てピン接合の場合を示している。この場合、力の釣り合いはどうなるか?

 

 

 

f:id:imotodaikon:20211212145234j:plain

 

 

B1の負担荷重の逃げ場は?

 

 

B1の負担した折板荷重は、B1が取り付いている梁、つまりB2に伝達されると考えるのが一般的だ。ただ、B2も両端ピンになっている。(正しくは接合先がないので、B2の先端はフリーになる。ただ、今回は一つの例としてB2も両端ピンとみなしています。)この場合、B1の負担した荷重の行き場がない。何故ならB2の支点とB1の支点が重腹しているからだ。

 

 

 

f:id:imotodaikon:20211212145928j:plain

支点の重腹はダメ

 

支点は部材の支持点を意味している。つまり、荷重の逃げる先の事だ。この場合、B1とB2は荷重の逃げる先を見失ってる。伝達先がないからこの架構は成り立たない。

ではどうするか。例えば、B2の先端に間柱を設けたらどうだろう。

 

 

 

f:id:imotodaikon:20211212150258j:plain

 

間柱を立てたらどうよ?

 

梁先端に間柱を立てると、B1とB2が負担した荷重は、間柱へと伝達されるため、この架構は成り立つ。この場合、あくまで間柱勝ちとする事が重要だ。構造設計では"~勝ち"という言葉をよく使う。これは"どの部材を主で通すか"という事だ。間柱勝ちというのは"間柱を通してそこに小梁を接合する事"を意味している。

 

このように、構造設計では支点の存在が不可欠だ。支点をどこに設けるか。どのように力を伝えるか。どの部材に荷重を負担させるか。が構造設計の肝になる。また、支点を考える上で重要なのは、支点とみなすには、その部分、つまり小梁なら大梁が支点になるが、小梁の負担する荷重が支点である大梁に引き継がれる為、大梁がその力に対して持ってないといけないという事である。伝達荷重に対して支点である部材が持っていないと架構としては成り立たないこの点には注意が必要である。

 

 

今回は支点について考えました。

今回はこの辺で。ではまた。