鉄骨造の細長比と許容圧縮応力度について

どうもimotodaikonです。

今回は、細長比と許容圧縮応力度の関係について考えます。

 

細長比とは?

細長比とは、部材の圧縮耐力を決定づける概念の一つで、一般に部材長が長くなる程、細長比は大きくなる。細長比が大きくなる程、座屈しやすい部材と判断し、許容圧縮応力度を低減しなければならない。ちなみに細長比はλ(ラムダ)で表す。λの算出方法は、座屈長さがℓk、断面二次半径がiの時、λ=ℓk/iで求める。

 

断面二次半径とは?

細長比の計算には、"断面二次半径i"の値を知る必要がある。断面二次半径は、断面二次モーメントIと断面積Aから算出する。i=√I/Aである。断面二次半径は断面二次モーメントと同じように、X軸方向の断面二次半径"ix"とY軸方向の断面二次半径"iy"があり、基本iyの方が小さくなる。よって、細長比λはiyによって決まる事が多い。

 

細長比には制限値がある

細長比"λ"には制限値があり、制限値を超えた部材を圧縮材とする事は出来ない。鋼構造設計指針に記載があるため以下にその内容を記述する。

 

"圧縮材の細長比はλ≦250以下とする。ただし、柱材ではλ≦200とする。"(鋼構造設計基準2005年版P.23より)

 

圧縮材とは主に圧縮力を受ける部材で、柱材以外のブレース軸力を受けるつなぎ材等が当たる。また、同指針より、

 

"耐力上はどんな細長比の大きな材を使用しても差し支えないわけであるが、λがあまり大きくなると、建方そのほかに支障をきたしたり、たわみが大きくなったりするので制限を設けた。"(鋼構造設計基準P.84より)と細長比の制限値についての説明がなされている。細長比が大きくなる部材ほど座屈しやすくなるので注意が必要である。

 

許容圧縮応力度と細長比の関係について

細長比λが許容圧縮応力度fcにどう影響するのかを見ていきたい。許容圧縮応力度の計算式は下記による。

 

(1)λ≦Λの時

fc=1-0.4(λ/Λ)^2/{3/2+(2/3)(λ/Λ)^2}*F

(2)λ>Λの時

fc=18/{65(λ/Λ)^2}*F

 

"Λ"はラムダと読む。ややこしいが、λとΛは同じ読み方をする。違いは大文字か小文字かの違いだけ。また、Λは"限界細長比"と言って、Λ=1500/√(F/1.5)により求める。F値に依存する値なので、一般的に"λ=119.84"と覚えてしまったらよい。(SN400級の時)

一応計算結果を以下に示しておく。

 

(1)F=235N/mm2の時(SN400級)

Λ=1500/√(235/1.5)≒119.84

(2)F=325N/mm2の時(SN490級)

Λ=1500/√(325/1.5)≒101.9

 

 

実際に許容圧縮応力度を計算してみる

ここでは、部材を仮定して実際に許容圧縮応力度を計算してみたい。計算結果から、細長比と許容圧圧縮応力度の関係性を確認してみよう。

 

◎間柱の設計

〇設計条件

・ℓ=5,000mm

・ℓk=5,000mm

・ℓy=2,500mm

 

〇使用部材(圧縮耐力に関係のない断面性能の記述は省略する)

H-300x150x6.5x9(SS400)

・F=235N/mm2

・Λ=119.84

・A=4,680mm2

・Ix=7,210x10^4mm4

・Iy=508x10^4mm4

・ix=124.0mm

・iy=33.0mm

 

〇荷重条件

・N=200kN(長期)

 

〇許容圧縮応力度の算出

λx=ℓkx/ix=5,000/124.0≒40.3

λy=ℓky/iy=2,500/33.0≒75.8

λx<λyより、許容圧縮応力度の計算にはλyを採用する。

 

λy<Λより

fc=1-0.4(λ/Λ)^2/{3/2+(2/3)(λ/Λ)^2}*F

   =1-0.4(75.8/119.84)^2/{3/2+(2/3)(75.8/119.84)^2}*235

   ≒111.6N/mm2

 

〇断面算定

σc=Nx1000/A=200x1000/4,680≒41.7N/mm2<fc≒111.6N/mm2

検定値:0.38<1.0 :OK

 

断面算定結果について

断面算定結果を見ると、断面はOKとなった。細長比は、上述の通りY軸方向の断面二次半径で決定している。ixとiyを比較するとix/iy=3.75倍以上の開きがあるので、iyで決まるのは当たり前っちゃ当たり前と言える。それだけ、H形鋼の弱軸方向は弱いのだ。(H形鋼に限らないけど。逆に言えば、だからこそ"弱軸"と呼ぶ。)

ただ、必ずしもiyで細長比は決まらない事に注意が必要。今回の仮定断面は、H形鋼の細幅を想定している。仮に広幅の同程度の断面であるH-300x300x10x15を元に計算してみよう。同断面の断面二次半径は、ix=131.0mm、iy=75.5mm。この時、λx=ℓkx/ix=5,000/131.0≒38.2、λx=ℓky/iy=2,500/75.5≒33.1となる。よって、細長比はλx>λyより、λx=38.2を採用する。

 

ちなみに、ℓxk=5,000でℓky=2,500とした理由についてだが、H形鋼は弱軸側が弱いので、弱軸方向には座屈止めを設けるのが基本。でないと設計が困難になるからだ。例えば、上の断面算定でℓkyも5,000mmにして計算すると、λy=5,000/33.0≒151.5となりfc≒40.7N/mm2になる。よって、σc/fc≒1.05>1.0:NGだ。座屈止めがないと設計がかなり厳しくなる事が分かる。しかも外壁を受けていると風荷重を受けるので、座屈止めなしの設計は難しいだろうな。

 

まとめ

今回の記事のまとめ。

・鉄骨柱の許容圧縮応力度は、細長比が大きくなる程不利になる。

・細長比λは、部材の座屈長さと断面二次半径によって決まる。

圧縮材の細長比は200未満とする。

・H形鋼の柱、間柱は弱軸方向に座屈止めを設けないと設計が困難。

・細長比は必ずしもY軸方向の断面二次半径iyで決まるものではない。

 

今回はこの辺で。

ではまた。