ねじり応力とは②~鉄筋コンクリート造の場合

どうもimotodaikonです。

 

今回も前回に引き続き、ねじり応力についての記事になります。

前回鉄骨を扱ったので今回は鉄筋コンクリートの場合を考えます。

 

大梁や杭基礎に生じるねじり応力

鉄筋コンクリート造においてもねじり応力が生じる場合があります。大梁や、杭基礎等に生じることが多いですね。

例えば下図のような場合。

 

f:id:imotodaikon:20210228100646p:plain

上図は、集中荷重を負担している中央梁の反力を両側の梁で支持する場合ですが、中央梁の端部の固定度が大きかったり、作用する荷重が大きいと、両側の梁に生じるねじり応力は大きくなると考えられます。

 

ねじり応力がコンクリート梁に生じると、ねじり応力によって斜張力が働きます。この力が梁のひび割れ耐力を超えると、コンクリートに斜めひび割れが生じてしまいます。そこで、斜張力を負担するねじり補強筋を追加して、ねじり応力に抵抗するように設計します。

 

実際に検討してみる

ここからは実際に検討を通して理解を深めたいと思います。

例えば下に示すような大梁があったとします。

 

f:id:imotodaikon:20210228101609p:plain

f:id:imotodaikon:20210228102317p:plain

部材断面・配筋一覧についての補足

・部材断面は上図でいうbxDに当たります。コンクリート断面は、建物の上層の梁程断面が小さく、逆に下層の梁程大きくなります。

例えば最上階の梁は、自重とスラブ(小梁含む)程度しか負担しませんが、下階の梁程上部から伝達される重量を負担することになるので、必然的に断面も大きくなります。

ここでは幅400mm、成800mmの梁を仮定しています。

 

・鉄筋コンクリートには、コンクリート内部に鉄筋を通します。それが一般に主筋と呼ばれるものです。

柱も梁も必ず主筋を通します。建物規模にもよりますが、使用する鉄筋径は一般にD19~D32あたりでしょうか。鉄筋径が大きくなるほど曲げ耐力が大きくなると考えていただいて構いません。

大梁主筋の鉄筋比Psは、【断面の0.4%以上または存在応力のによって必要とされる量の3/4倍の内小さいほうの値】とする必要があります。(RC基準2010年版P.15より)

今回は0.4%以上の鉄筋比となるよう1段筋の4-D25を上下主筋として配筋します。

 

・STPあばら筋とも言います。先ほど述べた主筋の周りを取り囲むように配筋します。

STPの役割はコンクリート部材のせん耐力の向上です。ピッチを細かくするほど、鉄筋径を大きくするほど耐力が向上します。

STPの鉄筋比Pwはコンクリート断面の0.2%以上とする必要があります。(RC基準2010年版P.19より)

ただ一点注意ですが、【鉄筋比が1.2%を超える場合は1.2%として許容せん断力を計算すること】というルールがあることです。(RC基準2010年版P.17より)

つまり1.2%を超えて配筋しても耐力に寄与しないということです。

 

・腹筋の役割は、STPのはらみ防止

梁成が大きくなるほど配筋量も増えます。

600≦D<900→2-D10

900≦D<1200→4-D10

1200≦D<1500→6-D10

といった感じで増やしていきます。1500成を超える場合は成が300mm増すごとに2本ずつ追加するのが一般的です。

 

その他の条件についての補足

・コンクリートの基準強度Fcは27N/mm2と仮定しています。

Fcはコンクリートのせん断耐力や、圧縮耐力に影響します。数値が大きくなるほどそれらの耐力も向上します。

 

・かぶり厚さは、コンクリート表面からSTPの外面までの距離を言います。使用箇所によって必要かぶり厚は異なりますが、ここでは50mmとしています。

 

・鉄筋の最外径とは、鉄筋の周囲の突起を含めた寸法のこと。

丸鋼であれば突起はありませんが、一般に使用する異形鉄筋には突起があります。

 

次に設計諸条件をまとめます。

 

設計諸条件のまとめ

f:id:imotodaikon:20210228113055p:plain

設計諸条件の補足

・bT及びDTはコンクリート断面によって決まる数値です。それぞれ幅と成を比較して小さいほう・大きいほうを取ります。

 

・dtコンクリート外面から主筋重心位置までの寸法を指します。ねじり応力の計算だけでなく鉄筋コンクリートの設計をするうえで常について回る概念です。

1段筋の場合、dt=かぶり厚+STP最外径+主筋最外径/2で求められます。

 

・dはコンクリートの有効成。D-dtにより算出します。

 

・jは有効中心距離といって部材の許容曲げ応力度を算出する際によく用います。

j=0.875dで算出します。

 

・bo・doは梁幅、梁成方向のSTPの中心間距離のことです。

それぞれ、b,D-(かぶり厚x2+STP最外径/2)にて求められます。

 

・ωは補足で書いている通りです。深く考えず、do/boで求めましょう。

 

fs,wft,sftは重要な概念です。

fsはコンクリートの許容せん断耐力を指し、1/30xFcかつ(0.49+1/100Fc)で求めます。

式を見ればわかりますが、上述したFcが関連していますね。Fcが大きくなるほど耐力が向上することがわかります。

wft,sftはそれぞれSTPの許容せん断耐力、主筋の許容応力度のこと。

鉄筋の材質によって変わってきます。

 

コンクリート、鉄筋の許容応力度はRC基準2010年版のP.53に記載されています。一度目を通しておくとよいと思います。

 

それでは設計に必要な応力を仮定します。

 

設計応力のまとめ(長期荷重とする)

f:id:imotodaikon:20210228115814p:plain

 

設計応力は上記のように設定しました。長期荷重時にねじり応力が発生するものとして仮定しています。

 

梁のせん断スパン比M/Qdによる割増係数の算出

f:id:imotodaikon:20210228123824p:plain


αはコンクリートの許容せん断耐力に関係する概念ですね。曲げモーメントとせん断力、梁の有効成dによって求めますが、1≦α≦2という条件も付随しているので、わざわざ計算せず安全側で1と設定することが多いです。

 

ここまででようやく設計の下準備が整いました。

それではねじり応力に対する検討を行っていきます。

 

ねじり応力に対する検討

f:id:imotodaikon:20210228120844p:plain

f:id:imotodaikon:20210228120943p:plain

f:id:imotodaikon:20210228121009p:plain

上から順に解説します。

 

まずコンクリート断面の許容耐力To、Qoを求めます。これらは今までに求めた設計条件の値を式に入れ込むことで算出できます。

Toが許容ねじり耐力、Qoが許容せん断耐力です。

 

その次に式が3つ出てきました。

(T/To)^2+(Q/Qo)^2≦1.0→(1)式

T/M≦0.4/(1+ω)→(2)式

as=0.0016・b・D(1+1/ω)(wft/sft)→(3)式

 

まず(1)式に数値を当てはめていきます。

すると(T/To)^2+(Q/Qo)^2=45.2≧1.0となりました。まったくもっていませんね。断面に対してねじり応力が大きすぎたかもしれません。

(1)式を満足しないことがわかったら、(2),(3)式は飛ばし、(4)式を満たしているか確認を行います。なぜなら(1)式を満たさない場合、(4)式により断面の確認を行い、(4)式も満たさないときは断面の見直しを行う必要があるからです。

上では(2)及び(3)式についても検討していますが、参考につけているだけなので気を付けてください。

本来の設計の流れは、

(1)式を満足する場合、(2),(3)式を確認する。必要に応じて(3)式で求められる軸方向筋の断面積を付加して配筋する。(4)式の検討は不要。

(1)式を満足しない場合、(2),(3)式は飛ばし、(4)式で断面の変更の必要性の確認。断面変更が必要なければRaunchの簡易公式(後述)により補強筋を算定し配筋する。

となります。

 

(4)式はT≦bT^2・DT・fs・(4/3)にて求めます。移行してT-bT^2・DT・fs・(4/3)≦0であれば良い訳ですが、T-bT^2・DT・fs・(4/3)=120.3>0.0となり、これもNGですね。

つまり断面の見直しが必要となります。

 

断面を見直して再検討を行う

上の計算で断面の変更が必要と分かりました。では梁幅、梁成を1.5倍して検討したらどうなるでしょうか。

 

f:id:imotodaikon:20210228123304p:plain

f:id:imotodaikon:20210228123924p:plain

f:id:imotodaikon:20210228123945p:plain

断面をbxD=600x1200としました。

配筋は幅に合わせて主筋を1段6本、STPを@150にし、腹筋を6本に増やしました。他は同じ条件です。

許容耐力を求めます。

 

f:id:imotodaikon:20210228124136p:plain

断面変更前と比べると許容ねじりモーメントが3倍以上、許容せん断力が2倍以上となりました。耐力が大幅に向上しましたね。これならいけるかもしれません。

 

f:id:imotodaikon:20210228124432p:plain

…ダメでしたね。ただ、(1)式の検定値が45.2→4.0と大幅な改善が見られます。コンクリート断面(幅・成)をそれぞれ1.5倍にしただけで大きな差が出ることがわかります。

(1)式を満たさないので(4)式で断面の変更が必要かどうか確認しましょう。

 

f:id:imotodaikon:20210228124704p:plain

(4)式よりT-bT^2・DT・fs・(4/3)=-187.8<0.0となりOKとなりました。よって断面の変更は不要となります。断面はOKなので、ここからねじり補強筋を求めて行きます。ねじり補強筋はRaunchの簡略式というものを用いて算出します。

 

f:id:imotodaikon:20210228125127p:plain

Raunchの簡略式の一つに必要な閉鎖型あばら筋1本の断面積の算出があります。必要断面積はa1=T・10^6・x/(2・wft・Ao)にて求めます。

xはあばら筋(STP)のピッチです。150ピッチで計算します。また、Aoは閉鎖型あばら筋で囲まれたコンクリート核の断面積を指します。boxdoで求めます。

すると、a1=182.2mm2と求められました。設計条件としてSTPを2-D13@150としていますが、D13の断面積は127mm2D13ではこの式を満足しないことがわかります。つまり鉄筋の変更が必要です。1ランク上の鉄筋D16の断面積は199mm2なのでこの式を満足します。よってD13→D16に変更します。

 

f:id:imotodaikon:20210228125903p:plain

Raunchの簡略式の二つ目に必要な軸方向筋の断面積の算出があります。軸方向筋とは、部材軸に対して水平に配筋する主筋や腹筋のことですね。

主筋に余裕があれば(検定値的な余裕を指します)、主筋も断面積として見込んでよいですが、今回はねじり補強筋用の腹筋を配筋することにします。

このあたりは設計者の判断に委ねられる部分になります。主筋が余っている(検定値に対して十分な配筋をしている)と判断できれば一部の主筋をねじり補強筋として考慮してもよいですが、私はあまりお勧めしません。ねじり応力は腹筋で負担する。その他の応力は主筋で負担する。とした方が単純明快です。また、安全側の設計になります。

 

上式に基づいて必要な軸方向筋の断面積asを求めます。

as=T・φo/(2・sft・Ao)によります。φoは閉鎖型あばら筋で囲まれるコンクリート核の周長です。2x(bo+do)で求めます。

計算式に各数値を当てはめていくとas=3463mm2と求められました。

この断面積を腹筋で補います。設計条件では6-D10としていますが、明らかに断面積が不足しています。6-D10→6x71mm2=426mm2<3463mm2→NGです。

腹筋D10の場合、必要断面積を満足するためには50本必要です。これは現実的ではありません。

では鉄筋をD19に変更しましょう。D19の断面積は287mm2。3463mm2/287mm2=12.1→14本として配筋します。

 

以上でねじり応力に対する検討は終了です。

最後に配筋をまとめます。

 

f:id:imotodaikon:20210228131527p:plain

 

最後に気を付けるべき点をまとめます。

一つ目は、ねじり軸方向補強筋は部材全長に渡り配筋し、柱内に定着すること。です。

現場は計算書ではなく構造図を見て建物を造ります。なので、この文言は構造図に記載しておく必要があります。

 

二つ目は、STPは必要な鉄筋比+0.1%以上の配筋とすること。です。

今回はせん断力100kNに対し、STPに期待せずともコンクリートのみで抵抗することができます。

τ=100x10^3/(bxd)=100x10^3/(600x1122)=0.14N/mm2<fs=0.76N/mm2→OK

よってSTPは制限値である0.2%以上配筋されて入ればよいことになります。

STP2-D16@150の時、鉄筋比Pw=2x199/(bx@)x100=2x199/(600x150)x100=0.44%>0.2%→OKです。

この時、STPは必要な鉄筋比+0.1%以上の配筋とする為、0.44%>0.2%+0.1%=0.3%→OK

以上で設計は終了です。

 

今回は鉄筋コンクリート造のねじり応力について考えました。

間に細々と解説を挟んだのでかなり冗長な文章になってしまいました…。

もう少し簡潔にまとめられる様になりたいところです。

 

それでは今回はこの辺で。

ではまた。

 

 

鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説

鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説