構造スリットと振れ止め筋

今回は振れ止め筋の検討について。

 

振れ止め筋とは

例えば3方スリットを切った場合の外壁は、外壁と柱梁の縁が切れている状態であり、地震に抵抗する要素がないためフラフラの状態である。(ただし、壁縦筋は上階の大梁内に定着されているので、1辺は固定端とみなすことができる)

 

 

 
図1.3方スリット(柱際▼は鉛直スリット、梁際▽は水平スリット)

 

 

 
図2.振れ止め筋なしとありの場合の外壁の挙動
左図は片持ち、右図は一端固定、他端ピン支持

 

上左図は、水平スリット及び鉛直スリットを設けなかった場合の外壁の挙動を示す。完全に梁(と柱)と壁の縁が切れてしまっているので、地震時に外壁が面外方向にフラフラと変形してしまう。これはまずい。

 

という事で、右図のように外壁と柱、梁との間に「振れ止め筋」を配筋し、変形を拘束する。ただし、構造スリットはそもそも外壁がフレームの変形を拘束することで生じる悪影響を抑制するために設けるためのもの。よって、拘束力が大きすぎるのも好ましくない。

よって、振れ止め筋は一般的に

D10~D16@300~400程度にとどめることが多い。(鉄筋径をなるべく小さく、ピッチを細かくしすぎない)

 

振れ止め筋の配筋方法

次に振れ止め筋の配筋方法について示す。

・外壁-梁に設ける振れ止め筋→振れ止め筋を梁あばら筋(STP)内に配筋する。

・外壁-柱に設ける振れ止め筋→振れ止め筋を柱帯筋(Hoop)内に配筋する。

 

要は、梁や柱のコア内にきちんと定着することで、振れ止め効果を十分に発揮させようとするという事である。

 

 

 

図3.梁と振れ止め筋(STP内に定着)

 

 

       

図4.柱と振れ止め筋(Hoop内に定着)

 

また、振れ止め筋の定着長だが、柱梁内に25d、柱梁フェイスから200mm程度壁内に定着する。

振れ止め筋径が、

D10なら25d=250mm

D13なら25d=325mm

D16なら25d=400mmの定着長が必要。まずないと思うが、極端に柱が小さい場合は定着長が取れない可能性もあるので気を付けた方がよいかも。

 

ちなみに25dの根拠については、「構造スリット指針P.48」に記載がある。

 

地震時、暴風時に振れ止め筋に生じる応力は曲げモーメント、せん断力であり、軸力は生じないので、柱・梁コンクリートへの定着長は建築基準法施工令の定着長(40d)とする必要はなく、文献(2)に示されている25dでよいと考えられる。

※文献(2):2007年版建築物の構造関係技術基準解説書(最新版は2020年版)

 

スリット幅について

次はスリット幅について、

一般に鉛直、水平スリットの幅は保有水平耐力の指定層間変形角、階高、柱・壁の内法高さから求める。以下に具体例を示す。

 

(例)

保有水平耐力計算時の指定層間変形角を一般的な1/100とした時のスリット幅を求める。

例えば図1の場合、

①階高3,200mm

②柱内法高さ2,400mm(梁成800mm)

③二次壁高さ2,400mmより、

 

(鉛直スリット幅)

鉛直スリット幅=(二次壁高さx1/100)+5~10mm

                         =(2,400x1/100)+5~10mm=29mm~34mm

 

(水平スリット幅)

水平方向変形幅=(階高/柱内法長さ)x二次壁高さx1/100

       =(3,200/2,400)x2,400x1/100=32mm

 

階高、柱・壁の内法高さによって必要となるスリット幅は異なるので、物件ごとに確認は必要だが、大体鉛直・水平スリットともに、25mm~30mm程度となることが多い。

 

振れ止め筋と防錆処理

振れ止め筋は、コンクリートのかぶりがなく(スリット部分の事)腐食の可能性が高く、取り換えが効かないため、耐久性に優れた「ステンレス棒鋼」、「溶融亜鉛メッキ塗装」、「エポキシ樹脂」等で防錆処理されたものを用いることが望ましい。

 

あらかじめ製品化されたものもあるので、それを使うのもよいかも。

 

www.koryo-kenpan.co.jp

 

↑コーリョー建販株式会社HPより

 

振れ止め筋の検討

ここでは振れ止め筋の検討方法を行う。検討方法は、「構造スリット設計指針」、「大阪府構造適合性判定指摘事例集」に倣う。

 

 

 

 

振れ止め筋の検討

設計条件として、

(外壁)

・外壁厚t=150mm

・Fc=24N/mm2

・外壁内法高さL=3,200mm-800mm=2,400mm

・壁縦筋=D10@200(単位当たりat=355mm2)、材質SD295(sft=295N/mm2)

地震時に対する検討なので、許容応力度は短期の値を用いる。

・壁筋のかぶり厚=40mm

・dt=かぶり厚+縦筋芯=40mm+11mm/2=45.5m→50mm

 

(振れ止め筋・スリット)

・振れ止め筋=D10@400(鉄筋径D=10mm ※呼び径とする)

・材質SD295(sft=295N/mm2)※短期許容応力度

・スリット幅=25mm

 

(外壁荷重)

・自重+仕上げ=5,100N/mm2

 

(検討モデル・検討方法)

検討モデルは、一端固定、他端ピンとする。支点反力の計算、曲げモーメントの計算は、検討モデルに従い行う。最大曲げモーメントを用いて壁縦筋の検討、振れ止め筋の検討はピン支持端の反力RAを用いる。水平震度は、低層階の場合KH=0.5としてよい。

 

結果、壁筋の検定値が0.2と十分な余力があることが分かる。また、振れ止め筋に関しても、余力はないもののD10@400で持つことがわかった。

 

もう少し余力が欲しければ、

・ピッチを@400→@300とすれば検定値が0.70程度

・鉄筋径をD10→D13に変更すれば検定値が0.43程度(@400のままで)

・可能ならスリット幅を小さくする

等の対応が考えられる。

 

開口がある場合の振れ止め筋の検討

上で計算したのは、外壁に開口がない場合(正しくは単位m当たりに開口がない場合)であり、実際の建物には開口があるので、開口の影響を考慮したパターンを考える。

 

 

 

①開口+開口下部重量を③□内で負担する場合

 

 

 

②開口下部②□外壁を腰壁にする場合

 

上の2つの図は、開口上下の外壁重量をどのように処理するかを示したもの。最も明快なパターンとして、開口右側の有効幅3,800mmの壁(オレンジの枠内)で、開口周りの重量を処理するといいうもの。

 

それ以外のパターンとして以下の2つを考えた。

①開口+開口下部重量を開口右側の有効幅3,800mmの壁(オレンジの枠内)で負担する。

開口上部は片持ちとして検討する。

 

②開口の両側の際に鉛直スリットを設けて、腰壁形式にする。開口下に水平スリットは設けない。開口上部は片持ちとする。(開口の重量はオレンジ枠内の外壁で負担するか、重量が微々たるものと判断し無視する)

 

いずれにしても壁筋と振れ止め筋が持っておけばよいんです。

検討は簡単に開口周りの重量を開口右側の壁で持たせるものとしてやってみる。

 

 

 

・壁縦筋の有効断面積は、3,800mm/@200*71mm2=1349mm2

・壁の重量はw=5.1kN/m2*5.0m*0.5=12.75kN/m

・振れ止め筋の有効本数は3,800mm/@400=9.5本

とする。

 

結果、縦筋はOK。振れ止め筋がD10@400でNGのため、D13@400に変更し、検定値0.59<1.0:OKとなった。

 

今回の振れ止め筋の検討はいずれも水平震度KH=0.5で計算したが、「大阪府構造適合性判定指摘事例集」には「建物の低層部分のため0.5」と書かれている。じゃあ建物最上階は?KH=1.0で検討?高層階の検討はKH=1.0で検討して持たせておくのが手っ取り早いと思うが、たぶんD13@400でも持たない箇所が出てくるので、最初からD16とかで全階統一するか、低層、高層のピッチを分けるかの判断が必要になりそう。

 

今回はこの辺で終わります。では👋