令和4年度一級建築士試験 Ⅳ構造問題について

どうもimotodaikonです。

今回は、本年度一級建築士試験の"Ⅳ構造"問題について考えます。

 

気になった問題①問No.17

まず、問No.17について。

個人的にこの問題意地悪だなあと思った。私は選択肢1を選んで間違えたんですが皆さん解けましたか。

消去法で2と4は除外できるが、1と3で迷った人は多いはず。ちゃんと問題の意図を理解していないと解けない問題だと思う。

 

・問題の内容は以下(選択肢2,4は省略)

 

選択肢1.H形鋼を用いた梁の全長に均等間隔で横補剛を設ける場合、フランジ幅が大きくなれば必要な横補剛本数は多くなる。ただし梁せい、断面積、ウェブ厚は同一とする。

 

選択肢3.一般に、細長比の大きな筋交いは強度抵抗型であり、細長比の小さな筋交いはエネルギー吸収型と言えるが、これらの中間領域にある筋交いは不安定な挙動を示す事が多い。

 

選択肢1は横補剛本数が増える場合がどういう場合なのかを考える必要がある。過去問で多かったのは、SN400N級とSN490N級の鋼材の場合、どちらが横補剛本数が増えるか、とかそんなやつ。今回は違う視点からの問題だった。

 

選択肢3はよくわからん初めて見る問題。

まず選択肢1について考える。

 

梁全長にわたって均等間隔で横補剛を設ける方法

この場合の計算方法は以下の通り。

 

①λy≦170+20n(400N級炭素鋼の梁の場合)

②λy≦130+20n(490N級炭素鋼の梁の場合)

 

上式より、弱軸方向の細長比が大きい程必要となる横補剛本数が増えることが分かる。

ただし、今回の問題は次のような条件付きである。

 

"梁せい、断面積、ウェブ厚は同一とする。"

 

なんともややこしい。この文章がある事で迷った人は多いんじゃなかろうか。試験時間は限られているし、緊張感もあるので考えれば考える程意味が分からなくなる。ただ、少し時間を置いて考えるとなる程間違っているなと理解できる。

 

まず、この問題の肝は、梁幅が大きくなるが、

 

①断面積は増えない事

②ウェブ厚は一定である事

 

である。これが意味するところは、断面積は一定だから"梁幅が大きくなる程フランジ厚が薄くなる"という事である。それを踏まえて、梁断面をH-500x200x10x16を基準に、幅を10mmごとに大きくした場合、細長比がどのように変化するのかを考えてみた。

 

 

                             

梁幅と細長比の関係

 

上の表では、梁幅を200mm~300mmまで10mmずつ変化させた。ただし、断面積が変わらないよう、フランジ厚を調整。フランジ厚の算出式は、断面積がウェブ断面積+フランジ断面積である事から以下のように算出できる。

 

A=Aw+Af

=(H-tf*2)*tw+B*tf*2

= H*tw-2tw*tf+2B*tf

=H*tw+tf(2B-2tw)

tf(2B-2tw)=A-H*tw

tf=(A-H*tw)/(2B-tw)

 

ちなみに

・座屈長さはℓk=7,000mmとした。(特に理由ないです)

・フィレット(R)の断面積は無視。

 

結果、弱軸方向の断面二次モーメントは、10mm増すごとに約1.07~約1.1倍になる事が分かった。断面二次モーメントが大きくなるということは、断面二次半径が大きくなるという事でもある。つまり、幅が大きくなればなるほど、細長比は小さくなり、必要補剛本数も少なくなるといえる。つまり選択肢1は誤り。

 

※倍率1は、梁幅10mm加算前と加算後の倍率の事。220幅なら210幅と比較した時の倍率ってことね。

※倍率2は、梁幅200mmと比較した時の倍率。梁幅が300mmになると、200mmの時より弱軸方向の硬さが2倍以上になる。たった100mm大きくなるだけで2倍。しかもフランジ厚は薄くなってるのに。断面二次モーメントがいかに高さ方向の影響を受けているかが分かる。

 

選択肢3ってなんの事いってんの

選択肢1が誤っているということは分かった。しかし、選択肢3では何を言っているのか理解が難しいので、こっちが間違っているのでは、という疑念が拭えない。実は、これは「2020年版建築物の構造関係技術基準解説書P.374,375」にそのまま記載されている内容である。

 

『細長比が大きい筋かい材では、圧縮側の筋かいは極めて小さい荷重で座屈してしまうので、引張筋かいの強度と変形能力により地震に抵抗することになる。(中略)つまり、細長比の大きい筋かいは強度抵抗型であり、細長比の小さい筋かいはエネルギー吸収型であるといえる。

(2020年版建築物の構造関係技術基準解説書P.374より引用)

 

『以上のことから、筋かいの種別は、柱・はりの塑性変形能力等と同様、架構のDFsに大きな影響を与えていることがわかる。特にエネルギー吸収型とも強度型ともいえない中間領域にある図6.3-8の筋かいは、不安定な挙動を示すことからDsの考え方からは最も不利になると考えられる。』

(2020年版建築物の構造関係技術基準解説書P.375より引用)

 

黄色本には、上記のように書かれている。問題文そのままやね、これは。でもなんか納得できないんだよなあ。実験結果では上で書いたとおりになるみたいだけど(実際に、細長比λ=88の時、細長比λ=56の時で実験した結果を黄色本では書いてる)

 

まず、細長比が大きい筋かいが強度抵抗型になるってのがよくわからん。細長比が大きい=座屈しやすいというのは分かる。ただ、座屈するから引張筋かいの強度と変形能力により地震に抵抗する、っていうのは、ブレース架構である事を前提にしてない?なら問題分にもそう記述すべきでは?と思う。

単に細長比が大きい筋かい=強度型でしょって言われても、引張筋かいの存在を想定していないこっちからしてみたらなんのこっちゃわからん。

 

また、細長比の小さい筋かいはエネルギー吸収型~ってそうなんか。なんか制震ブレースみたく、あえて降伏させてエネルギー吸収能力に期待する想像をしていたので、細長比が大きい→座屈降伏しやすい→エネルギー吸収型。細長比が小さい→座屈耐力が大きい→強度抵抗型と考えてしまった。(中間領域云々は…知りませんこんなの…笑)

 

上でも書いたけど、黄色本に書いてある事をそのまま問題分にしてるので、この選択肢は正になる模様。難しすぎでしょ。

 

今回は構造の問題で一番気になった内容を掘り下げました。(掘り下げになっているのか…)

他に気になる問題があれば取り上げます。

 

ではまた。

令和4年度一級建築士学科試験について

どうもimotodaikonです。

今回は、先日行われた令和4年度一級建築士試験について書きたいと思います。

 

令和4年度一級建築士試験の難易度は?

今年の一級建築士試験の難易度は、大手資格学院の評価によると、過去二年に比べて優しくなり、各科目の足切りは過半(計画11点、環境11点、法規16点、構造16点、施工13点)、総得点は90~92点と予想しているみたい。詳しくは↓からどうぞ。

 

・総合資格学院HP

www.shikaku.co.jp

 

日建学院HP

www.ksknet.co.jp

 

・TAC HP

www.tac-school.co.jp

 

令和に入ってからの難易度で言えば、元年に次いで二番目に低かった模様。合格点の基準(総得点)だけ比較すると、

 

令和元年:97点 合格率22.8%

令和2年:88点 合格率20.7%

令和3年:87点 合格率15.2%

令和4年:90~92点(予想) 合格率15~20%くらい?

 

元年が一番簡単だったのよね。合格率20%超えてるし。ただ総得点97点は、なかなか厳しいな。

昨年は全体的に難易度が高く、私もズタボロだった。特に計画が難しかった。建物の名前とか時代とか特徴とか…どうでも良くね?って思ってしまう私は建築に向いていないと思います。

 

さて、今年の建築士試験を振り返って、皆さんどうでしたか。私は中々難しかったと思いますが、大手資格学校の評価は例年並みとの事。法規と施工と構造もなかなか意地悪な問題が出ていたなと思うんですが。各科目の足切りは回避したけど、総合点が怪しい人も多数いると思うので、過去の大手資格学院の予想点をまとめてみた。これで少しでも気持ちが楽になる人がいれば良いですが。

 

総合資格学院・日建学院・TACの合格ライン点予想

 



2014年から2021年までの各資格学校の予想合格ライン点をまとめたのが上の表。TACはHPにて2014年までさかのぼれたので、そこから各年の予想点を引っ張ってきた。他2校は、過去の予想点がほぼHPに掲載されていなかったので、いろんなサイトを周って情報収集。ただ、2015年と2017年については、総合資格学院と日建学院の予想点は見つけられなかった。なのでTACのみ記入。

 

項目は、各校の予想点、その年の合格点との誤差、的中率(ドンピシャなら100%、それ以外0%)に分けた。一番信用に足る資格学校がどれなのか、吟味する為にも今回の表を作ってみたのだが、3学校とのまああんまりずれがない。的中率だけみれば、TACが一番高いっぽい。過去8年で3回的中してる。時点で日建、その次に総合資格。

 

必要得点との誤差についても、TACは±1点以内に収まってる。2017年はイレギュラーだったようで必要得点+3点を予想してる。他2校は情報がないので比較できないが、恐らくそこそこズレてたんじゃない。

 

という事で、あくまでこの表を見る限りでは、一番信用できそうなのはTAC、時点で日建学院、その次に総合資格学院。今年は90点~92点の予想みたいだけど、合格ラインが各学校の予想を下回って、少しでも救われる人が増える事を祈ります。

許容曲げ応力度の計算(エクセル)

・許容曲げ応力度の算出

 

fb=max[89000/(ℓb*h/Af),{2/3-4/15(λb/Λ)^2}*F]

※ただしft以下

 

fb=IF(MAX(89000/(C9*C5/C8),(2/3-4/15*(C11/C3)^2*C2))>C2/1.5,C2/1.5,MAX(89000/(C9*C5/C8),(2/3-4/15*(C11/C3)^2*C2)))

 

 

 

毎回エクセル組むのだるいんで覚書。

 

 

上の画像のセルに数値打ち込んでfbの計算式コピペしたら計算できるよ。

(短期は1.5倍する)

 

 

 

定着長の規定について考える

どうもimotodaikonです。

今回は、RC造における鉄筋の定着長について考えます。

 

定着長とは何か

定着長とは何か。RC造は鉄筋とコンクリートによって成り立っているが、鉄筋及びコンクリートがしっかりと体をなしている(お互いにちゃんとくっついてる)から本来持つパフォーマンスを100%発揮できるのであって、そこがうまくいっていないと、力がうまく伝わらなかったり、大げさかもしれないが鉄筋が抜け出したり、不都合がいろいろと起きるわけだ。そこで、鉄筋とコンクリートの一体性を高める為に、必要定着長というルールがある。

 

定着長を決定づける要因

定着長には鉄筋径の40dとか20d+フック付きとか様々な長さがあるが、定着長を決定づける要因の一つにコンクリート強度がある。コンクリート設計基準強度Fcが大きい程、定着長は短くて済むのである。これは、鉄筋とコンクリートの付着が取りやすくなる事に起因している。コンクリート強度が大きいということは、鉄筋をつかむ力(これを付着力と呼ぶ)が大きくなるということだ。要は鉄筋に引張力がかかった時、引抜に対して抵抗しようとする力が大きくなる。鉄筋がコンクリートから抜け出しにくくなる。

 

ちなみに異形鉄筋の許容付応力度の算出式は以下による。(丸鋼は別途計算式による)

 

①上端筋:τa=1/15Fcかつ(0.9+2/75Fc)以下

②その他:τa=1/10Fcかつ(1.35+1/25Fc)以下

 

上の計算式で2つの式に分かれているのは、

①上端筋は、コンクリート打設後、コンクリートの自重により鉄筋周囲のコンクリートが時間とともに沈下し、鉄筋とコンクリートの接着面積が小さくなる事に起因する、②に比べて低減式となっている。

②式は上端筋以外、すなわち2段目、3段目の鉄筋の許容付着応力度の計算式である。

 

・仮にFc=27N/mm2として計算してみる。

 

①上端筋:τa1=1/15*27=1.8N/mm2、τa2=(0.9+2/75*27)=1.62N/mm2。τa=min(τa1,τa2)=1.62N/mm2となる。

②その他:τa1=1/10*27=2.7N/mm2、τa2=(1.35+1/25*27)=2.43N/mm2。τa=min(τa1,τa2)=2.43N/mm2となる。

 

①と②の比率は①:②=1.62:2.43=1:1.5。つまり2段目以降の鉄筋のτaは、1段目の1.5倍とれるという事になる。

 

少し話がそれたが、Fcが大きくなる程付着力が高くなる事は明白だ。計算式の中で許容付着応力度を高める要素はFcしかないからである。

 

 

1段目の鉄筋は、コンクリートとの隙間が生まれる

 

定着長の規定値は?

定着長の規定値は、詳しくはRC基準やRC造配筋指針を参照してほしい。ここでは一般的な定着長として実務でもよく使われる、直線定着とフック付き定着(折り曲げ定着)、それぞれの定着長の規定値についてまとめる。

 

 

 

直線定着長L2と、フック付き定着長L2h

 

上表にあるように、鉄筋の材質がSD295(A・B)~SD490まで規定されており、Fcが大きくなる程、必要定着長は短くなることが分かる。

 

例えば、SD295を例にとってみると、Fc18だと30dのものが、Fc48~Fc60だと15dと、1/2になる事が分かる。ちなみにdは鉄筋の呼び径の事で、D13の13、D25の25をそれぞれの係数にかけた値とすれば良い。

すなわち、直線定着で鉄筋径D16、かつFc18の場合→L=30*16=480mmが、Fc48~Fc60の場合→L=15*16=240mmとなる。

上の表を見てもらえば分かるが、当然直線定着よりもフック付きの方が、必要定着長は短くて済む。どちらがコンクリートから抜け出しやすいかを考えるとイメージしやすいはずだ。なんのひねりもなくただまっすぐコンクリートに突っ込んだ鉄筋と、90°~180°のフックを付けた鉄筋はどっちの方がコンクリートから抜け出しにくいか。そう、フック付きの方なのでありますしおすし。

 

ここで、直線定着とフック付き定着で、どの程度必要定着長に差があるのかを比較してみた。それが下の表である。

 

 

 

直線定着とフック付き定着の必要定着長の比較

 

なんと全てのFc及び鉄筋材料において、きれいに10d差である事が分かった。さっき上でさらっと書いたが、フック付き定着のフック角度(折り曲げ角度)は90°、135°、180°の3パターンある。いずれの場合も必要定着長に違いはない。違うのは、"余長"と呼ばれる、折り曲げた後の鉄筋の引き延ばし長さである。

 

・90°フックは余長=8d以上

・135°フックは余長=6d以上

・180°フックは余長=4d以上

 

である。ほんとは図も押せたかったけど面倒くさいので気が向いたときに貼っときます。

 

では今回はこの辺で。ではまた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

設計ルートと付着割裂破壊の検討について

どうもimotodaikonです。

今回は、設計ルートと付着割裂破壊の検討についての記事。

 

設計ルートに関わらず付着割裂破壊の検討はしないといけないのか?

答えはyes。設計ルートが1だろうが3だろうが付着割裂破壊の検討は行わなければならない。実は私も最近知った。どの設計事務所でも、設計者でも、建物規模が極端に小さい場合等を除き、基本的にルート3で設計する事が多いと思う。私も例外ではなく、ルート3以外で設計した経験はほとんどない。思い出すのも難しいレベル。

 

ただ、以前たまたまルート1で設計した物件があり、そこで付着割裂破壊をすべきなのか否か迷ったという経験がある。意外と知らない人もいるかもしれないので、今回の記事を書くに至った。

 

そもそも設計ルートって何なの

そもそもの話になるが、設計ルートとは何かについて考えたい。設計ルートは、構造設計を行う上でたどる道筋のようなものである。設計ルートにはルート1、ルート2及びルート3の3つのルートがある。それぞれのルートで計算方法が異なる。

 

①設計ルート1

いわゆる許容応力度設計法。S造においては、地震力を1.5倍に割り増して計算する方法。普段ルート3ばかりやっていると、標準せん断力係数Co=0.2というのが頭に刷り込まれている。ただ、ルート1ではこれを1.5倍する。すなわち、Co=0.2*1.5=0.3で設計するのである。そしてこの時に部材に生じる応力が、部材の許容応力度を超えない事を確認する。RC造・SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)においては、一定以上の壁量・柱量を確保することで耐震性を上げる方法。

ルート1のメリットは、適合性判定が不要なこと。そして比較的計算が楽であるという事に尽きる。

(ほんとはルート1-1、1-2と派生しているのだが、今回は省略)

 

②設計ルート2

設計ルート2では、ルート1のように設計応力を割り増す必要はないが、許容応力度計算に加え、層間変形角の確認(基本、1/200を基準とする)及び偏心率・剛性率の検討などを要す。ぶっちゃけあんまりルート2で設計する事ってないと思う。結局、許容応力度計算もするし、層間変形角・偏心率・剛性率の計算もしなければならないので、ルート1のように時間短縮のメリットもなければ、ルート3よりも手間が極端に減るわけでもなし。私もほとんどやったことない。中途半端な立ち位置。

 

③設計ルート3

多分一般的な計算方法。保有水平耐力計算を行う方法。保有水平耐力計算というのは、地震時(震度6以上)に建物が崩壊しない事(つぶれない事)を確認する手法である。保有水平耐力の計算時は、指定層間変形角として1/100程度を指定し、そこまで押し切った段階(せん断破壊等の脆性破壊が起きたらそこでSTOPさせる)で、保有水平耐力が必要保有水平耐力を上回っている事を確認する。そしてそれとは別に、Ds時の検討も行う必要がある。

Ds時の検討というのは、簡単に言うと"建物がどのように壊れるのか"を確認する作業である。指定層間変形角は、基本的に1/50とし、1/50に達するまで水平力を加えていく。変形が進むにつれ、柱や梁、耐震壁といったフレームをなす構造部材にはヒンジ(曲げモーメントを負担できない箇所)が生じていく。ヒンジは柱頭・柱脚、梁端部等に生じるが、(当然、耐震壁にも生じる)基本的に、柱崩壊系は好ましくないとされている。望ましいのは梁崩壊系。梁崩壊系というのは、要は柱に対して梁の耐力が小さく、外力に対して柱よりも先に梁が降伏する崩壊形式の事である。柱崩壊系に比べ、梁崩壊系の方が粘り強い崩壊系である事が分かっている。(過去の大震災:1923年の関東大震災や1995年の阪神大震災の経験から)

 

着割裂破壊の検討について

では、付着割裂破壊の検討の話に戻る。上で設計ルートに関わらず、付着割裂破壊の検討は行わなければならないと書いた。その根拠について、ウェブ掲載「2020 年版 建築物の構造関係技術基準解説書の質疑(Q&A)のNo.14」に、関連する質疑及び回答があるので以下に紹介する。 

 

Q:『鉄筋コンクリート造部材の靭性の確保について、設計用せん断力が RC規準2018の安全性確保のための許容せん断力を超えないことを確認したら、通し配筋の場合、付着割裂の検討は省略できると記されています。一方、RC 規準 2018 では、「大地震時に曲げ降伏しないことが確かめられた部材ですべて通し配筋とする場合は、せん断の安全性の検討を行えば、付着の安全性の検討は省略してよい。」(同規準 p.215 L18)と記されています。大地震時に曲げ降伏しないことが確かめられた部材という条件は必要
ないでしょうか。』

 

A:『ご指摘の鉄筋コンクリート造の付着割裂の検討に関する記述は、ルート1という特定の条件を前提として、壁量・柱量の確保により十分な耐力、剛性が確保されているために大きな塑性変形が生じる恐れはなく、したがって RC 規準 2018 に示された「大地震時に曲げ降伏しないことが確かめられた部材」を自動的に満足するものと見なした記述になっています。なお、ルート2についても同様です。』

 

↓2020 年版 建築物の構造関係技術基準解説書の質疑(Q&A)

https://www.icba.or.jp/zzfilebox/kenshuka/2020qa.pdf

 

大事なのは、上のQ&Aの赤字部分。『~安全性確保のための許容せん断力を超えないことを確認したら~』である。これは裏を返せば、

①安全性確保のための検討を省略したら付着割裂破壊の検討は必要。

②安全性確保のための検討を省略しても、通し配筋でなければ付着割裂破壊の検討は必要。

と読み取れる。

 

また、質疑内容の黄色本回答頁は、P.385の29行目と書いてある。その頁は、「第6章 保有水平耐力等の構造計算 6.4.2鉄筋コンクリート造のルート1の計算」に該当するのである。これより、ルート1においても、靭性確保の為の検討(付着割裂破壊の検討)が必要であると判断する事が出来る。(ルート2は同書籍P.389、ルート3はP.395~P.396に記述がある)

 

以上より、設計ルートに関係なく、付着割裂破壊の検討は必要である。ただし、上文にあるように、特定の条件を満たせば省略する事も可能である。と考えて差し支えない。

 

今回は設計ルートと付着割裂破壊の検討の関係について考えました。

今回はこの辺で。ではまた。

 

 

 

鉄筋のあきと間隔について

どうもimotodaikonです。

今回は、RC造の鉄筋間隔・あき寸法について考えます。

 

鉄筋同士の必要あき寸法はいくつか

鉄筋と鉄筋は、ある程度のあきをもって配筋する必要がある。コンクリートはセメントと水と砂(細骨材・粗骨材含む)と各種混和剤(減水材等)によって構成されている。特に粗骨材は、最大粒形が25mm程度のものを使用する事が多く、鉄筋間がきつきつだと粗骨材が通らずコンクリートが分離してしまう。よって、鉄筋を並べるときはある程度の距離を取って配筋する必要がある。

 

鉄筋の必要あき寸法は以下の図の通りである。

 

 

 

        f:id:imotodaikon:20220219002539j:plain

 

鉄筋の必要あき寸法

 

 

あき寸法は、①25mm以上かつ②粗骨材最大径の1.25倍以上かつ③鉄筋の呼び径の1.5倍以上のいずれも満たす必要がある。つまり、①~③の最大値を取ればよい。

 

例えば、鉄筋径が16mmの場合を考えよう。

粗骨材の最大径25.0mmとしたとき、この時点で①ははじかれる。考えなくて良い。

 

それ以外の条件について見ていくと、

②に当てはめると、25.0mm*1.25=31.25mm。

③に当てはめると、16.0mm*1.5=24.0mm。

②>③より、31.25mm→丸めて32.0mm以上の空き寸を確保すればOKという事が分かる。

ちなみに、粗骨材を25mmとした場合、鉄筋径が19.0mmまでなら②で、22.0mm以上は③で決まる。(22.0mm*1.5=33.0mm>25*1.25=31.25mm)

これを覚えておくだけでも設計が少しは楽になる。

 

鉄筋間隔について

では鉄筋間隔は何なのか考えたいのだが、上の図を見たまんまで、鉄筋の芯々間隔を"鉄筋間隔"と呼ぶ。

鉄筋間隔の計算方法は簡単で、必要空き寸法に鉄筋の外径(呼び径ではない点に注意)を足したら終わり。

 

例えば、上の例で挙げた鉄筋径が16.0mmの鉄筋間隔は、32.0mm+18.0mm(外径)=50.0mmである。

 

外径ってなんなの

そもそも鉄筋には、"呼び径"と"外径"の二つの呼び名がある。これらの違いはなんなのか。今の時代、鉄筋と言えば異形鉄筋が頭に浮かぶ人も多いはずだ。むしろそれ以外見たことないって人もいるかも。異形鉄筋というのは、鉄筋の周りに節が付いた鉄筋を言う。

 

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異形鉄筋

 

上図を見たら分かる通り、鉄筋の周りに節が付いていて、縞々に見える。こいつが異形鉄筋。異形鉄筋を断面で見た時の左の節の先端~右の節の先端までの距離を"外径"と呼ぶ。尚、構造設計では、異形鉄筋以外使わない。

異形鉄筋の節の役割は、コンクリートとの付着力を高める事である。コンクリートとの付着力を高めると良い事は、簡単に鉄筋がコンクリートから抜け出さなくなる事だ。RC造は、コンクリートと鉄筋が一体だからこそRC造なのであって、それぞれが分離してしまうと、本来の持つ力を発揮できない。

 

構造設計では異形鉄筋以外使わないと書いたが、昔は異形鉄筋以外を使うのが主流だった。異形鉄筋のように節のない鉄筋を丸鋼と呼び、こいつを使っていた。鉄パイプの小さい版みたいなやつ。

 

 

鉄パイプ 農業・建設資材の写真

 

丸鋼(画像は鉄パイプ)

 

(画像検索かけても丸鋼が出てこないので鉄パイプの画像を使用。でも見た目はこんな感じ)

 

丸鋼なら、呼び径も外径も同じなので迷う事はないのだが、今の主流は異形鉄筋だ。異形鉄筋の外径は、よく使う径であれば大体呼び径+2.0mm~4.0mm程度である。

 

 

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外径と呼び径

 

鉄筋間のあき・鉄筋間隔の知識は、図面を描くときに必須

上で書いてきた、鉄筋同士必要あき寸法、及び間隔を知っておくことは図面を描くうえで非常に役に立つ。というか知っておかないと描けない。特に杭頭補強筋と基礎梁主筋、柱主筋との納まり図のような、雑詳細図を描く場合は必須だろう。

 

他には、壁厚の薄い壁にいくつの径までなら納まるかとか(梁幅の小さい梁でも同じ)、梁幅に対して何本並ぶかとか(ポケットブックおススメ),計算に関わってくる内容でもある。

 

 

 

 

今回は鉄筋の必要空き寸法と鉄筋間隔について考えました。

今回はこの辺で。ではまた。

柱梁接合部の必要帯筋比は0.2%か0.3%か?

どうもimotodaikonです。

今回は、柱梁接合部の帯筋比について考えます。

 

柱の帯筋比の規定値は0.2%以上

RC基準に細かい事は書いてあるが、帯筋比は0.2%以上となるよう配筋しなければならない。同じくせん断補強筋であるあばら筋についても同様。0.2%以上が規定値である。帯筋のピッチについては、@100を基準に、せん断力に対して必要となる本数を付加する。柱梁接合部内も@100のまま配筋を行う事が一般に行われている

 

ただ、実際、柱梁接合部は@150までは許容されている帯筋比0.2%の規定値を満足できる範囲であればピッチの調整は、150ピッチを超えない範囲で行える。

 

柱梁接合部の検討を靭性設計指針によって行う場合は話が違ってくる

上で書いた通り、柱梁接合部も、柱の一般部も帯筋比0.2%は満足する事が必要だ。ただ、「柱梁接合部の検討」を「靭性設計指針に基づいて行った場合、柱梁接合部の帯筋比は0.3%以上配筋しなければならないルールがある。私も最近適判の指摘で初めて知った。

 

 

 

 

靭性設計指針

 

 

まず、「2020年版建築物の構造関係技術基準解説書P.401」より、柱梁接合部のせん断補強筋比に関する記述がある。以下の内容である。

 

『④(前略) 補強筋の間隔は150mm以下、かつ、隣接する柱のせん断補強筋間隔の1.5倍以下とする。せん断補強筋比としては、柱の最小せん断補強筋量に準じて0.2%以上のせん断補強筋量を配筋する。

 

うん。上で私が書いた通りの事が書いてある。柱梁接合部のせん断補強筋は、

 

①ピッチが150mm以下である事

②最小せん断補強筋比は0.2%とする事

 

を満足しておけば問題ないという事ですよね?

 

しかし、同基準解説書P.689より、靭性指針式を用いた設計(終局時の検討)を行う場合は、靭性指針式の基準に則る事』と書かれている。

 

実は柱梁接合部には2種類の検討方法がある。電算を使ったことがある方なら見たことがあるかと思うが、接合部の設計方針について、選択肢が2つ用意されているはずだ。

 

①短期設計による(RC基準によるもの)

②終局時の検討による(基準解説書)

 

の2つである。

 

この選択によって、接合部の検討方法は異なるし、接合部の必要帯筋比が異なる。

 

①の場合は帯筋比0.2%以上

②の場合は帯筋比0.3%以上 である。

 

『2020年版建築物の構造関係技術基準解説書Q&A』に帯筋比について言及されている

上で書いた内容は、『2020年版建築物の構造関係技術基準解説書Q&AのNo.17』に記述があるので質疑文と回答文を引用する。

 

Q:『鉄筋コンクリート造の柱はり接合部のせん断補強筋量 pwについて、②によって付録 1-3.1 の靭性指針式(p.689)を用いる場合、同指針 8.6 によれば pw は 0.3%以上と規定されていますが、④で pwは 0.2%以上としています。靭性指針式で検討する柱はり接合部の pw を 0.2%とすることが可能でしょうか。

 

A:『鉄筋コンクリート造の検討に靱性指針を用いる場合、性能を確保するためには同指針で求められるせん断補強筋量(0.3%以上)とする必要があります柱はり接合部の②の検討では、設計者が接合部のせん断終局強度を適切に設定する必要があり,その一例として付録に記載の方法を用いることができることを示しています。従って,付録に記載の式以外を用いる場おいては,その用いた式の基規準で定められる pw の値と④に示された数値を比較して、より厳しい数値を採用する必要があります。(質疑 No.1 も参照して下さい。)』

 

質疑の②というのが終局時の検討の事。終局時の検討を行った時も帯筋比Pwは0.2%で良いか?という質問に対し、ICBA(一般財団法人建築行政情報センター)は、明確に、靭性指針式(終局時の検討)に則り接合部の検討を行う場合、靭性指針の規定に基づくもの(Pw≧0.3%)とする事。と回答している。

↓Q&Aリンク

https://www.icba.or.jp/zzfilebox/kenshuka/2020qa.pdf

 

帯筋比0.3%を満足する柱断面について

接合部の検討を靭性指針式によって行った場合、帯筋比が0.3%以上必要だという事は分かった。では、帯筋比0.3%を満足する為に必要となる帯筋本数及びピッチと、柱断面との関係について見てみたい。

 

 

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柱梁接合部周辺の配筋

 

柱梁接合部周辺の配筋は上図のようになっている。帯筋は@100を基本とし、小ピッチでも75@までとする。これは、コンクリートの充填性を考慮した上での規定値である。(2010年版配筋指針P.200に記述がある)

 

 

 

 

コンクリートには、粗骨材と呼ばれる大きめの石が含まれている。粗骨材の最大寸法は25mm(20mmの場合もあるが)とする。少なくともこいつが鉄筋の間を通らないと、コンクリートと粗骨材が分離してしまうのでマズイ。よって、帯筋に限らず、あばら筋を含めたせん断補強筋のピッチは、細かくしすぎるのは良くない。施工の手間も増えるしね。

 

上図青枠内を柱梁接合部、別名パネルゾーンと呼ぶ。

 

 

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帯筋比が0.3%以上となる条件

 

 

このパネルゾーンの帯筋比が0.3%以上となる条件は上図の通りだ。

 

①2-D13@100なら柱幅B及び成Dが846mmまでなら0.3%を満足できる。

B=D=2*127mm/100mm/0.003≒846.6mm→846mmまで。

 

②3-D13@100なら柱幅B及び成Dが1270mmまでなら0.3%を満足できる。

B=D=3*127mm/100mm/0.003=1270mmまで。

 

③2-D13@90なら柱幅B及び成Dが940mmまでなら0.3%を満足できる。

B=D=2*127mm/90mm/0.003≒940.7mm→940mmまで。

 

ちなみに帯筋2本で、最小ピッチである@75とした場合は、

B=D=2*127mm/75mm/0.003≒1128.8mmm→1128mmまでとなる。

 

まとめ

①帯筋比は0.2%以上必要

②柱梁接合部の検討方法は「短期設計」or「終局設計」のどちらかを選択する

③②によって、必要帯筋比が異なる。

・短期→帯筋比0.2%以上

・終局→帯筋比0.3%以上

 

 今回は必要帯筋比について考えました。

ではまた。