どうもimotodaikonです。
今回は杭基礎の支持力算定方法について考えます。
杭の支持力は地盤により決まる耐力と杭耐力の比較による
杭の支持力は、杭周囲の地盤のN値や土質区分等によって決まる地盤に対する許容支持力と、杭体自身の許容支持力(許容圧縮耐力)の小さい方の値を取ります。今回は、地盤に対する許容支持力の算定方法にのみ触れます。(※杭体自身の許容圧縮耐力の算出方法は別記事にて)
杭形式について
まずは杭形式についてみていきます。というのも、杭形式によって支持力の算定式が異なるからです。杭には主に3種類の形式があります。
①打込み杭
②埋込み杭
③場所打ち杭
この3種類です。
①打込み杭
打込み杭とは、既成杭を現場でハンマーで地盤に打ち込む工法です。地盤を傷めずに耐力が得られる一方、ハンマーを使うので騒音問題が生じます。特に市街地で打込み杭の施工を行う際は騒音対策をしっかり行う必要があります。一般には、認定工法のプレボーリング併用打撃工法が採用されます。(アースオーガーで一定の深度まで掘削して杭を建込み打撃する工法)
②埋込杭
アースオーガーで掘削し、掘削中に壁面が崩壊する事を防ぐため、安定液を噴アースオーガーの先端から噴出します。所定の深度に達した後、根固め液(セメントミルク)に切り替えて所定量を注入し、完了後に杭周固定液(一定強度のセメントミルク)を注入しながらアースオーガーを引き上げて杭を埋め込む工法です。いくつかの認定工法があります。
1.プレボーリング拡大根固め工法
"プレ"とは英語で"事前に"という意味。つまりあらかじめ掘削を行っておき、杭を埋め込み杭底をコンクリートで拡大(杭先端の杭径を大きくする事で許容支持力を大きく取れる)する工法。
2.中堀り根固め工法
杭中空部に挿入したアースオーガーにより、杭先端の地盤を掘削し、掘削した土砂を杭中空部を通して杭頭部から排出、杭の自重及び圧入により所定深度まで杭を沈設する。オーガー先端から根固め液を注入し、球根を築造。根固めの硬化によって支持力を発揮させる工法。
https://www.c-pile.or.jp/library/58d8a24e6a12346753a62666/5d43f4605b48bbf235c0928b.pdf
など。
③場所打ち杭
場所打ち杭は、現場でコンクリート杭を形成する工法です。認定工法には以下の3工法があります。
1.アースドリル工法
恐らく最もポピュラーな工法。掘削孔の表面に地盤崩壊防止のためのケーシングを立ち上げ、安定液を注入しながらアースドリルで掘削します。所定の深度まで掘削完了後にスライム処理(掘削底に沈殿した掘削土を含んだ異物。取り除かずに施工すると所定の耐力を発現できなくなる恐れがある。)を行い、鉄筋かごを挿入、トレミー管にてコンクリートを打設し最後にケーシングを引き抜く工法。
2.リバースサーキュレーション工法
リバース機を据え付けて、スタンドパイプを建込み、満水にして回転ビットにて掘削する工法。掘削完了後、鉄筋かごを挿入し、トレミー管にてスライム処理を行ってコンクリートを打設。その後スタンドパイプを引き抜きます。
3.オールケーシング工法
ケーシングチューブを圧入しながらハンマーグラブで掘削します。掘削完了後、スライム処理を行い、鉄筋かごを挿入、トレミー管にてコンクリートを打設し、ケーシングチューブを引き抜きます。
支持力の算出式
続いて各杭工法の支持力の算出式を以下に示します。
杭の支持力の大小関係は、杭径・杭長及び地盤条件(支持地盤等)が同じ場合、打込み杭>埋込み杭>場所打ち杭となります。支持力算出式は上式によりますが、それぞれの杭工法の支持力算出式で異なるのは、各式の前半部分の【300~150/3*N*Ap】(以後【前半の式】と表記)だけで、後半の式の【1/3*(10/3*ΣNs*ΣLs+1/2*Σqu*ΣLc)*φ】(以後【後半の式】と表記)は変わりません。
支持力の算出にはボーリング柱状図が必要
支持力の算出を行う上で必要になるのは、前回の直接基礎の記事でも引用したボーリング柱状図です。ボーリング柱状図には、地層ごとの層厚や深度、N値、地質区分など支持力算出に必要な情報が記載されています。今回は前回用いた柱状図を元に支持地盤を決定し杭工法による支持力の違いを見ていきます。
ボーリング柱状図(杭の姿図追記)
今回使用するボーリング柱状図です。杭の姿図(赤の実線)を記載しています。地盤レベルの設定条件は、GL=KBMとします。(KBMとは基準ベンチマークの事。敷地外のある一点(マンホール等)を基準とし、ボーリングで掘削する孔の地盤レベルを測るための起点の事。)支持層は、GL-16.9m以深の砂礫層。N値50以上確保できるので十分強固な地盤と考えられます。
杭は支持層に1m埋込みます。ここで一点補足です。今回のように支持層が明確な場合、支持層への根入れ深さは、
〇埋込み杭:杭径d以上
〇打込み杭:50cm以上かつ杭径d/2以上
〇場所打ち杭:1m以上かつd/2以上
とします。今回は杭径φ1,000のストレート杭を想定しているので、支持層に1m貫入させることにします。よって杭長は16.9m+1.0m=17.9mとなります。
支持力算出用の杭諸元・N値・地盤区分
杭及び地盤条件等をまとめます。
・杭諸元
杭径=φ1,000
杭先端断面積Ap=(1,000/2)^2*3.14/10^6=0.785m2
杭周長φ=1,000*3.14/10^3=3.14m
・杭先端N値
杭先端N値は最大値60とします。支持層が不明確な場合は一般に杭先端部から上方に1d、下方に1dの範囲のN値の平均値を採用します。ただ、今回は支持層が砂礫層と明確です。よって杭先端部のN値50を採用します。
・砂質地盤・粘性土地盤N値及び地盤に接する杭長について
砂質地盤の各層厚、土質区分、N値については以下とします。
①深度2.05m~2.60m→層厚=0.55m→細砂→N値=3
②深度8.20m~8.90m→層厚=0.70m→細砂→N値=6
③深度8.90m~9.60m→層厚=0.70m→シルト質細砂→N値=5
④深度9.60m~12.65m→層厚=3.05m→細砂→N値=(26+14+23)/3=21
⑤深度12.65m~13.75m→層厚=1.10m→礫混じり細砂→N値=22
⑥深度15.60m~16.90m→層厚=1.30m→細砂→N値=42→30とする
⑦深度16.90m~17.90m→層厚=1.00m→砂礫→N値=50→30とする
※砂質地盤のNsの最大値は30とします。よって⑥、⑦は柱状図から読み解くと30以上のN値が期待できますが、最大値30の規定を適用しています。
粘性土地盤の各層厚、土質区分、N値については以下の通りです。
①深度1.60m~2.05m→層厚=0.45m→シルト→N値=(4+3)/2=3.5
②深度2.60m~5.70m→層厚=3.10m→粘土質シルト→N値=(3+2+1)/3=2
③深度5.70m~7.30m→層厚=1.60m→シルト→N値=(1+2)/2=1.5
④深度7.30m~8.20m→層厚=0.90m→砂質シルト→N値=(2+6)/2=4
※粘性土地盤の一軸圧縮強度はN値から換算した値(qu=12.5N)から計算しています。尚、砂質地盤同様に上限値を設けており、N値の最大値は200とします。
以上を元に杭の地盤に対する許容支持力の算出を行います。
地盤に対する許容支持力の算出
各杭工法による支持力算出結果を以下に示します。
①打込み杭の場合
②埋込み杭の場合
③場所打ち杭の場合
先述したように、打込み杭による地盤に対する許容支持力が最も大きく、場所打ち杭の約1.7倍の支持力が期待できます。場所打ち杭に対する埋込み杭の支持力の倍率は約1.22倍となります。
杭先端【前半の式】により求まる支持力及び杭が接する地盤のN値・層厚により求まる支持力【後半の式】それぞれが地盤に対する許容支持力に占める割合は?
ここで一点考えたいのが、杭先端部分により求まる支持力【前半の式】及び杭が接する地盤により求まる支持力【後半の式】が地盤に対する許容支持力にどれだけの影響を及ぼしているかということ。杭工法に関わらず、【後半の式】(1/3*~)は同じなので【前半の式】と【後半の式】をそれぞれ抜き出して計算結果を比較してみたます。
1.前半式の抜粋
2.後半式の抜粋
簡便の為ここでは長期支持力についてのみ触れますが、【後半の式】により求められる支持力は700kNしかありません。それに対し【前半の式】により求まる支持力は【後半の式】による支持力の2.7倍~5.6倍程度。
上表を見ると分かり易いかと思いますが、杭先端で決まる支持力が占める比率が地盤に対する許容支持力の7割以上を占めている事から、支持力を少しでも確保したいのであれば、杭径を大きくするのが一番の近道である事が分かります。
今回は主に地盤により決定する支持力算出式を見てきましたが、記事の前半でも述べたように本来は杭体の圧縮耐力との比較により、小さい方の値を取る事になります。杭体の許容圧縮耐力の算出方法はまた記事にしたいと思います。
今回はここまで。
それではまた。