どうもimotodikonです。
今回は鉄筋コンクリート造における釣り合い鉄筋比について考えます。
釣り合い鉄筋比とは
釣り合い鉄筋比とは、引張鉄筋の耐力とコンクリートの耐力が釣り合っている状態(鉄筋とコンクリート双方が同時に許容応力度に達する状態)の引張鉄筋の比率の事です。
引張鉄筋比が釣り合い鉄筋比以下の場合、鉄筋が先に許容応力度に達するので、鉄筋の耐力=部材の耐力となります。
逆の場合、つまり、引張鉄筋比が釣り合い鉄筋比以上の場合、コンクリートが先に許容応力度に達するので、コンクリートの耐力=部材の耐力となります。
小梁は引張鉄筋比で決定するものとして設計するのが慣例
RC小梁などは、初めから引張鉄筋比が釣り合い鉄筋比以下であると仮定して検討しますね。小梁は地震力(水平力)を負担しません。負担するのは床や自重、積載荷重程度なので、そこまで大きな応力は負担しません。つまり少ない鉄筋量で済みます。
少ない鉄筋量で済む→鉄筋の耐力で部材耐力が決定すると考えられます。
一方、基礎梁などは時に3段筋になることがあり、断面に対して鉄筋比が大きくなる場合があります。コンクリートボリュームに対し鉄筋比が大きくなるということは、コンクリート耐力で部材耐力が決まる可能性が高くなります。
釣り合い鉄筋比の算出式
釣り合い鉄筋比の算出式は以下によります。
Ptb=1/2(1+ft/nfc)[ft/nfc{n+(n-1)γdc1}-(n-1)γ(1-dc1)](RC2010年版P.123)
長方形梁の許容曲げモーメント算出式
長方形梁の許容曲げモーメントは次式により求められます。
Ma=Cbd^2
C1=Ptfc/3Xn1{n(1-Xn1)(3-Xn1)-γ(n-1)(Xn1-dc1)(3dc1-Xn1)}
C2=Ptft/{3n(1-Xn1)}{n(1-Xn1)(3-Xn1)-γ(n-1)(Xn1-dc1)(3dc1-Xn1)}
(RC2010年版P.123)
ここで、
C1は式前半にfcが組み込まれているのコンクリート耐力で決まる場合
C2は式前半にftが組み込まれているの鉄筋耐力で決まる場合
と考えられます。
なお、Cはmin(C1,C2)とします。
上式を用いて梁の耐力の算出を行う
上にまとめた式を使って梁の曲げ耐力を求めます。
まずは梁断面の仮定から。
1.梁断面の仮定
2.コンクリート強度の設定
参考としてコンクリートの設計基準強度によるヤング係数比の一覧表を下記に示します。
3.配筋の設定
配筋の設定は上記のようにしました。梁主筋の引張鉄筋比の規定値は0.4%以上、STP(せん断補強筋)の鉄筋比は0.2%以上です。
今回の梁では、上筋引張・下筋圧縮を想定しています。長期応力を考えた場合、部材端部は端部の拘束力により上端引張、下端圧縮となりますよね。応力図で言ったら下図のような感じです。
長期応力では両端部が上端引張、中央が下端引張の応力図となります。逆に言えば引張側とは反対側(つまり応力曲線が出ていない側)は圧縮側と考えることができます。
水平力が加わった場合は左右の端部がそれぞれ下or上端引張、上or下端引張になります。加力方向によって反転しますね。上記では右加力の場合の曲げ応力図を示しています。
4.設計諸条件のまとめ
設計条件をまとめます。
かぶりは50mm、dtは50mm+14mm+28mm/2+65.5mm*2/6=99.8mm。dcは50mm+14mm+28mm/2=78.0 mm。
at、acは単純に鉄筋本数x鉄筋の断面積。
at=6*507mm2=3042mm2、ac=4*507mm2=2028mm2。
dは梁の有効成。D-dtで求められます。dc1はdc/dつまり、梁有効成に対する圧縮鉄筋重心位置までの距離比の事。dc1=78.0mm/700.2mm≒0.111。
γは腹筋比と言って、引張鉄筋量に対する圧縮鉄筋量の比率の事。
γ=2028mm2/3042mm2≒0.667。
ちなみに、構造上主要な梁は腹筋梁(引張鉄筋、圧縮鉄筋を配筋した梁)としなければなりません。また、主筋を引張側だけに入れる梁を単筋梁と言います。
5.引張・圧縮鉄筋比の算出
続いて引張鉄筋比及び圧縮鉄筋比の算出を行います。
引張鉄筋比Pt=at/bd=3042mm2/(450mmx700.2mm)≒0.00965→0.965%。
圧縮鉄筋比Pc=ac/bd=2028mm2/(450mmx700.2mm)≒0.00643→0.643%。
6.コンクリート・鉄筋の許容応力度のまとめ
コンクリートと鉄筋の許容応力度は以下。
fcは1/3xFc=1/3x24=8.0N/mm2(長期)。短期は長期の2倍=16.0N/mm2。
鉄筋の許容応力度については割愛。
7.釣り合い鉄筋比の算出
釣り合い鉄筋比の算出を行います。計算式は上で上げた通り。計算式に数値を当てはめれば計算できます。
計算により長期はPtbℓ=0.876%、短期はPtbs=1.389%と求められました。
5.で計算した鉄筋比を見るとPt≒0.965%>Ptb=0.876%。つまり長期については、引張鉄筋比が釣り合い引張鉄筋比を超えている為、コンクリート耐力で部材耐力が決定することが分かります。反対に短期はPt≒0.965%<Ptbs=1.389%より引張鉄筋比<釣り合い鉄筋比の為、鉄筋の耐力=部材耐力ということになります。
ここで一点補足というか蛇足。今回SD345を使用し、鉄筋のftℓ=215N/mm2、fts=345N/mm2となっています。長期許容応力度に対し短期許容応力度の倍率は345N/mm2/215N/mm2より約1.60倍。それに対しコンクリート強度は長期8.0N/mm2、短期16.0N/mm2、よって2.0倍の開きがあります。
つまり、コンクリートと鉄筋の長期・短期許容応力度の倍率の違いにより釣り合い鉄筋比が長期と短期で違う値になっています。
例えば、鉄筋の材質がSD390(D29以上)の場合だと、ftℓ=195N/mm2、fts=390N/mm2。390N/mm2/195N/mm2=2.0。よって釣り合い鉄筋比は長期=短期となります。
このパターンが通用するのはSD390の時だけです。SD295だと鉄筋ftℓ=195N/mm2、fts=295N/mm2より、fts/ ftℓ=約1.51倍なので、釣り合い鉄筋比も長期・短期で異なる値となります。
〇SD295の場合の釣り合い鉄筋比
長期と短期で約1.83倍の違い。
〇SD390の場合の釣り合い鉄筋比
長期=短期になる。
8.中立軸比の算出
中立軸とは、曲がる部材の中で伸縮が生じない箇所を言います。反曲点位置と考えてよいかもしれません。要は応力が生じない箇所の事。
9.Cの算出
Cを求めます。
CはそれぞれのCの最小値を取ります。C1及びC3は数式に"fc"が入っていることからコンクリート耐力に関する数式、C2及びC4は数式に"ft"が入っていることから鉄筋耐力に関する数式であることが分かります。
結果は以下です。
10.許容曲げモーメントの算出
最後に許容曲げモーメントの算出。
Ma=Cbd^2で求めます。Maℓ=384.3kNm、Mas=646.6kNmとなりました。
最後に確認です。
一般にコンクリート部材の曲げ耐力はMa=at・ft・jで求めますが、本式(Ma=Cbd^2)によって求まった値と同じになるのでしょうか。
Mas=at・ft・j=3042*345*700.2*0.875/10^6≒643.0kNm。
微小の差が生じています。at・ft・jにより求める曲げ耐力は略算法、Cbd^2による計算は清算法と考えていいんでしょうか。
at・ft・jの方が値が小さいので、当式による曲げ耐力を用いれば安全側の設計にはなりますよね。
このあたりまた調べていきたいと思います。分かり次第記事にします。
今回はこの辺で。
ではまた。