鉄骨部材の断面性能計算/アングル

どうもimotodaikonです。

今回は前回に引き続き鉄骨部材の断面性能計算を行います。今回考えるのは"アングル"です。

 

アングルとは?

鉄骨部材に"アングル"と呼ばれる部材がある。形状はL字型で、"等辺山形鋼"と呼ぶこともある。等辺山形鋼は、長辺と短辺が同じ長さを持つ部材で、使用頻度が高いものにL-50x50やL-65x65、L-75x75などが挙げられる。使用箇所はブレースが多い。"等辺山形鋼"は、最大で長手方向及び幅方向が250mmで板厚35mmの規格品がある。(L-250x250x35)実務ではなかなかお目にかかれないサイズ。

 

"等辺山形鋼"の仲間に"不等辺山形鋼"と呼ばれるものがある。これは、等辺山形鋼と違い、長手方向と幅方向の長さが異なる性質を持つ。例えばL-100x75x10など。"等辺山形鋼"は、強軸、弱軸の概念が存在しない。要はX軸、Y軸の断面性能が同じ。対して"不等辺山形鋼"は、強軸と弱軸がはっきりしており、使用箇所によって縦使い・横使いを使い分ける。

 

これら等辺山形鋼、不等辺山形鋼の総称を"アングル"と言う。

 

アングルの断面性能の求め方

アングルはL字型をしており、図芯が断面内に存在しない特徴を持つ。H形鋼は図芯位置が分かり易いが、アングルはそうもいかない。アングルの断面性能を計算する時は、まず図芯位置を明確にする。図芯位置が分かれば、図芯から離れた軸についての断面二次モーメントの計算式を用いて部材の断面二次モーメントが求められる。

 

 

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離れた軸についての断面二次モーメントの計算方法

 

実際に計算してみる

では、実際に計算してみよう。前回のH形鋼の断面性能計算と同じく"R部分は考慮しない"。計算が煩雑になるので。"L-65x65x6"を例にとって計算してみよう。

 

アングルは、2つの部材に分けて計算する。具体的には下図のように2つの長方形により断面が形成されていると考える。

 

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アングルは2つの長方形によって成り立っている

 

これら長方形の部材名をまず決めよう。左側の縦長の長方形を①。右側の横長の長方形を②とする。まず①と②の断面積を求める。

 

1.断面積の算出

断面積の計算は簡単だ。長方形なので幅x高さでよい。よって、

①はA1=txH=6.0x65.0=390.0mm2。

②はA2=(B-t)xt=(65.0-6.0)x6.0=354.0mm2。

①+②=ΣA=744.0mm2。

 

2.それぞれの長方形の図芯位置を求める

次に①と②の図芯位置を求める。アングルの図芯位置ではなく、あくまで長方形の図芯位置。

アングルの左下の角を座標(0,0)として、そこから図芯位置を計算する。

①はx1=t/2=6.0/2=3.0mm。y1=H/2=65.0/2=32.5mm。

②はx2=t+(B-t)/2=6.0+(65.0-6.0)/2=35.5mm。y2=t/2=6.0/2=3.0mmとなる。

 

3.部材の図芯位置を求める

ここまで来たら、アングル材の図芯位置を求める。計算方法には各長方形の断面積と図芯位置を使う。計算式は以下による。

 

Cx=(A1*y1+A2*y2)/ΣA

Cy=(A1*x1+A2*x2)/ΣA

 

これが部材の図芯位置の計算方法。この計算式を知っておけば、基本的にどんな部材の図芯も求められる。では今回の部材に当てはめて計算してみよう。

 

Cx=(A1*y1+A2*y2)/ΣA=(390.0*32.5+354.0*3)/744.0≒18.46mm

Cy=(A1*x1+A2*x2)/ΣA=(390.0*3+354.0*35.5)/744.0≒18.46mm

 

となる。長方形①の断面積と図芯位置を掛け合わせたものと長方形②の断面積と図芯位置を掛け合わせたものを合算して、全断面積で除すと部材の図芯位置が求められる。今回は"L-65x65x6"の"等辺山形鋼"を想定している為、原点からの図芯位置が同じ結果になる。

 

ここまでの情報を整理しておくと下図のようになる。

 

 

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アングルの図芯位置のまとめ

 

 

4.断面二次モーメントを求める

次に断面二次モーメントの計算を行う。ここでは、①及び②の長方形断面についての断面二次モーメントを求める。①、②それぞれの図芯を通る中立軸を仮定し、中立軸に対する断面二次モーメントIx,Iyを計算する。

 

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長方形①と②をそれぞれ取り出す(図芯=中立軸)

 

 

①の断面二次モーメントの算出

Ix1=t*H^3/12=6*65^3/12=137312.5mm4

Iy1=H*t^3/12=65*6^3/12=1170.0mm4

②の断面二次モーメントの算出

Ix2=(B-t)*t^3/12=(65-6)*6^3/12=1062.0mm4

Iy2=t*(B-t)^3/12=6*(65-6)^3/12=102689.5mm4

 

①、②の断面二次モーメントが上で求められた。後は、"離れた軸についての断面二次モーメント"の公式を使って、アングル材の断面二次モーメントを求める。

 

 

 

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アングル自体の断面二次モーメントの計算

 

1.Ixの算出

Ix=In+A*y^2より

Ix=Ix1+A1*(Cx-y1)^2+Ix2+A2*(Cx-y2)^2

   =137312.5+390.0*(18.46-32.5)^2+1062.0+354.0*(18.46-3.0)^2

   =299862.0mm4

2.Iyの算出

Iy=In+A*x^2より

Iy=Iy1+A1*(Cy-x1)^2+Iy2+A2*(Cy-x2)^2

   =1170.0+390.0*(18.46-3.0)^2+102689.5+354.0*(18.46-35.5)^2

   =299862.0mm4

 

等辺山形鋼なので、両軸方向ともに値は同じになる。

 

5.断面係数を求める

断面二次モーメントIx、Iyが出たらあとは簡単。断面係数と断面二次半径を計算する。まず断面係数を求める。断面係数Zの計算方法は"Z=I/e"による。

 

図芯から部材の最外縁までの距離を計算する。

 

ex=H-Cx=65.0-18.46=46.54mm

ey=B-Cy=65.0-18.46=46.54mm

 

ex,eyを求めたら断面係数を計算。

 

Zx=Ix/ex=299862.0/46.54≒6443.1mm3

Zy=Iy/ey=299862.0/46.54≒6443.1mm3

 

となる。

 

6.断面二次半径を求める

断面二次半径の計算方法は、"i=√I/A"による。

よって、

 

ix=√Ix/ΣA=√(299862.0/744.0)≒20.1mm

iy=√Iy/ΣA=√(299862.0/744.0)≒20.1mm。

 

計算結果のまとめ

以上で計算は終わり。最後に既製品の断面性能と比較して、手計算ベースで求めた数値が妥当かどうかを確認する。

 

 

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断面性能が妥当か?

 

規格品として流通している、本来のL-65x65x6の断面性能が左側の表。対して右側が今回手計算ベースで求めた断面性能。そこまで大きく外れていないので、手計算でもニアリーな数値まで持っていける事が分かった。

 

今回はアングルの断面性能について考えました。

ではまた。